2013年07月01日
「植物版トキ」とも呼ばれているコシガヤホシクサをご存じだろうか。本来の自生地から姿を消し、人の管理下でのみ生存する「野生絶滅」種を、自然の中へ戻す試みは鳥類のトキでよく知られている。同じように植物でも、コシガヤホシクサを対象とした野生復帰プロジェクトが国立科学博物館を中心に2008年から動き出し、昨年には野生生まれの世代が開花・結実して、自然状態での世代交代を再現することに成功した。今年も春に発芽した個体が、順調な生育を続けている。プロジェクトを進めた環境省は「植物での野生復帰は初めて。地域で守る先進的な取り組みとして期待している」とエールを贈る。
コシガヤホシクサは水辺で育つ一年生植物。水面下でも成長するが、秋の開花期に花茎を伸ばし、水の外で花を咲かせて種子をつけるという生活を送る。コシガヤという名でわかるように、埼玉県越谷市の元荒川で1938年に初めて見つかった。だが、そこからはやがて姿を消し、75年に下妻市にある農業用ため池の砂沼(さぬま)で再発見された。春から夏にかけて、このため池には農業用水がたたえられ、自生地は水没してしまうが、水に強いコシガヤホシクサはほかの植物との競争を避けて育つことができる。そして稲作が終わる秋には、もう水が不要となって水位が下げられるため、開花・結実が可能だった。人間による農業活動のサイクルが、コシガヤホシクサという植物の生活史とうまく重なり合って、この唯一の自生地が守られていた。
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