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急進展する脳の読み取り技術に歯止めは要るか

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 現代社会ほど、「自由」の価値が強調される時代はない。しかし同時に、現代ほど「自由」が空洞化した時代もないのではないか。コマーシャリズムやメディアが加工した情報に誘導されて、私たちは暮らしている。

 「自由」が空洞化するその間隙を、人工的な「快」が埋めようとしている。エアコン、TVなどの家電や車、ゲームや音楽、ムービー、そして健康的な美食、すべてそうだ。

 「自由な意思」も「快の判断」も、あくまで脳の働きだ。とすると脳からそれらを読み取ったり、さらには操作できる可能性さえあるのではないか。それが自由の空洞化に拍車をかけるのではないか。「ニューロマーケティング」や「政治にもマーケッティングの手法」などを見聞きして、不安を覚える人も多いだろう。

 実際の所、神経科学はどこまで進んでいるのだろう。そのどこかに、倫理的な一線を引けるのだろうか。

 「デコーディング(復号、解読)」が、今神経科学界の流行語になっている。人が心の中で考えていることを、機能的磁気共鳴画像(fMRI)などの神経信号から読み取ろうというのだ。

 最初の試みとしてはごく単純に、脳の視覚皮質の活動から、被験者が心に思い浮かべた視覚イメージを言い当てる手法が探られた。たとえば縦線、横線、斜め線の三択ぐらいであれば、高い確率で言い当てることができる(国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の神谷之康氏らの研究)。

 ここで注意しておきたいのだが、言い当てるにはその被験者が実際に線分を知覚しているときの脳活動のデータが必要で、その上三つの選択肢があらかじめわかっていることが必要だ。これが「ニューロセキュリティ」(個人の神経情報の保護)を論じるときに効いて来る。

 神谷氏らの最新の成果では、見た夢の内容までも、ある程度復元できるという(サイエンス誌、2013年)。この研究は

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