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頭は軽々に下げないで―「緊急地震速報」考

尾関章 科学ジャーナリスト

 お詫び会見で頭を深々と下げるのが定番になったのは、1990年代くらいからだろうか。会社や役所で不祥事が見つかれば、とりあえず謝って低姿勢に徹する。それが危機管理のマニュアルとして定着したようだ。

 たしかに、頭を下げるべき重大な不正やミスが世に多いのは事実だ。だがときには、ここは頭を下げるのをグッとこらえてほしかったと思うこともある。8日夕の誤った緊急地震速報をめぐる気象庁幹部の記者会見がそうだった。その光景をテレビで見て、私は大きな違和感を抱いた。

 緊急地震速報とは、地震で最初に届く小さな揺れを素早くとらえて後に届く大きな揺れを予測し、急いで広報するというシステム。瞬時に分析、判断して発表するというアクロバットのような防災技術だ。今回の速報は8日午後4時46分ごろ、紀伊半島で起こった地震がきっかけで発信された。「マグニチュード(M)7・8、最大震度7」の地震が起こり、九州から関東にかけての34都府県で「震度4以上の揺れが襲う」という内容だった。

 実際には、和歌山県でM2・3の地震があっただけだった。ところが速報は、震源近くの最大震度を阪神・淡路大震災級、東日本大震災級の「7」と見積もり、しかも関東以西の広範囲に警戒を呼びかけた。その結果、東海道・山陽新幹線は小田原―新岩国間ですべての列車がいったん停まった。新幹線の遅れは東海道で最大20分、山陽で最大29分。そのほか在来線、私鉄や地下鉄などにも影響が出た。迷惑をこうむった人は多い。

 だからこそ、気象庁は「大変な影響、ご迷惑」をかけたことを謝った。そこまではよい。たしかに謝罪の一言はあってしかるべきだ、と私も思う。だが果たして、あそこまで深く頭を下げるべきだったのか。

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