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ポスト京都に国際社会が講ずる地球温暖化対策を巡る外交交渉が2015年末のゴールに向けて佳境を迎えつつある。その中で、米国が、京都議定書の実行段階とはうって変って、活発な提案を繰り返していることは既に本コラム(本年1月26日付け)で着目したところである。

 シェールガスの利用拡大があって米国は温暖化対策には消極的になるはずだ、という我が国の産業界寄りの一部「玄人」筋の予測を裏切り、米国はその後も矢継ぎ早に政策、特に国内政策を打ってきている。今回はその様子を見つつ、国内での関連する動きにも触れてみることにしよう。

石炭だき発電所への厳しい姿勢

 オバマ大統領は、去る6月25日にワシントン市内のジョージタウン大学で演説した。石炭火力発電所に関するCO2の排出規制を提案しつつ、世界の気候変動対策を先導する意気込みを示す、意欲的な内容であった(時間も50分近い長さだったようで、その後の7月が月間平均気温としては歴代一位を記録するなど夏の出だしは米国では酷暑であったため、屋外で演説を聞いた聴衆は大変につらかったであろう)。

 オバマ大統領は、2009年に国際的に表明済みのCO2削減目標である、2020年までに05年比で17%削減(実際は、一昨年の11年で既に6.9%減)を再度コンファームした上で、新設の石炭火力発電所向けのCO2排出基準案をこの9月下旬に、また、既設の石炭火力発電所に対する基準案は来年6月までに提案し、最終決定を受けて、16年から実際に適用する、との方針を示した。

 この排出規制は、新規立法を要せず、既存の清浄大気法(クリーン・エア・アクト、CAA)に基づいて連邦環境保護庁に与えられている権限の範囲で行われるとされるものである。実際、同法に基づいて米国では、自動車からのCO2排出規制が行われているほか、2007年の米国最高裁判決において、CO2やその他の温室効果ガスは、同法で言う大気汚染物質であることが判示されており、実行に移される可能性は大いに高い、と目される。

 翻って我が国を見ると、原子力発電所の停止に伴う電力不足を補うことと、円安に伴うエネルギー価格高騰を避けることのために、石炭火力発電所の増設への期待が出てきている。これは、しかし、時代逆行と言わざるを得ないのではないか。

 前回の自公政権時代に行われた小名浜の石炭火力焚き発電所の環境影響評価に際して示されたように、将来のCCS化(二酸化炭素を煙の中から分離して、地中深く処分する技術)を見越しつつ、高い燃焼温度で発電する石炭ガス化発電への移行、電力会社全体での確実なCO2排出係数削減を担保する仕組みの導入などが石炭火力を利用する場合の方針となっているが、入札制度を利用するなどひたすら安い電力を購入しようとする近時の動きには、こうした石炭利用方針との整合性が疑われ、世界の技術進歩に取り残される惧れを感じるのは論者だけではあるまい。国内の石炭復権派の方々には、是非、米国の政策や技術の動向にも注意を払っていただきたいものである。

米国にも炭素税への関心が生まれている

 オバマ演説の1か月前、5月22日、米国の連邦議会予算局(CBO)は、炭素税の環境・経済影響というレポートを公表した。これは、連邦議会で関心が高まっている包括的な税制改革の中での一つの選択肢との位置づけであって、炭素税自体が直ちに、政治アジェンダに乗ることを意味するものではないが、これをきっかけに、米国では長い間タブー視されてきたエネルギーへの課税強化が公然と議論されることになるとすると、画期的である。

 炭素税の意義は、当然ながら、その価格効果によってCO2排出が減ることである。今回のレポートでは、これまでの米国内での排出量取引に関する研究成果に準拠し、政策上必要な排出量上限を定めた場合の排出権の市場価格が、CO2排出量1トン当たりで20ドル(初年度、以降、年々5.6%上昇)であるので、それを炭素税額にスライドさせて分析を行っているが、その場合の10年後の削減効果を8%と見積もっている。

 炭素税のもう一つの意義は、税収を生むことである。上記の前提では、10年間の税収は1兆2000億ドルに達するとしている。

 炭素税の経済上の影響は、仮に、税収が国民経済に還元されなければ、もちろんネガティブなものとなるが、逆に還流をされれば、その還流の仕方によって経済へのインパクトや内容が大きく変わることになる。このレポートでは、政府の財政赤字の削減による民間資本の充実への貢献、低所得者への還流、投資減税のようなものなどの検討を行っている。

 こうした分析自体は、OECDなどの国際機関やドイツ、イギリスあるいは日本の政府や民間機関でも昔から行ってきており、目新しいものではない。しかし、米国の議会事務局がレポートをした、ということに関しては、論者としては時代を画する臭いを感じざるを得ない。米国はエネルギーに関する税金が世界でも最も安い国の一つである。そこに環境政策や経済政策が政策対象として介入するとなると、その効果は極めて大きい。米国は変わり身の速い国である。近年、異常気象で国民が痛めつけられていることを頭に置くと、いつ何時、米国が政策転換するか分からず、注視が必要である。

米国に学び、日本も本格的な環境税制改革を目指すべき

 炭素税に関しては、我が国は、米国に比べた一日の長を持っている。石油石炭税の、地球温暖化対策税としての税率アップが昨年行われ、今後も計画的に値上げてされていくことになっているからである。

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筆者

小林光

小林光(こばやし・ひかる) 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)。工学博士。1949年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業。環境庁(省)では、環境と経済、地球温暖化などの課題を幅広く担当。1997年の京都会議(COP3)の日本誘致のほか、温暖化の国際交渉、環境税の創設などを進めた。環境事務次官(2009~11年)時代には水俣病患者団体との和解に力を注ぐ。自然エネルギーをふんだんに利用したエコハウスを自宅にしていることで有名。趣味は蝶の観察。

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