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ベトナムの「鎮守の森」―自然信仰のアジア・地球的ビジョンへ

広井良典 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

 あまり大きな話題にはなっていないが、今年は日本とベトナムが国交を樹立して40周年で、去る9月29日にはTBS系テレビで国交樹立40周年スペシャルドラマ『The Partner ~愛しき百年の友へ~』が放映されたりした(ちなみにこれは『半沢直樹』の最終回の翌週の同時間枠)。

 偶然だが、そのような時期に、JICAの社会保障国際協力の仕事でベトナムのハノイに行く機会があった(9月23~26日)。私は10数年前からJICAのこの種のプロジェクトに関わっているのだが、最近では2年前のインドネシア、その前のマレーシア、中国等での同種の仕事から続く流れの一つだった。

 実はベトナムは現在、国民すべてをカバーする医療保険・年金の整備を進めようとしており、同じアジアの国で、経済発展の比較的早い時期に国民皆保険・皆年金を実現した日本の経験に高い関心をもっている。

 そのような背景から、社会保障をめぐる日本の経験とベトナムにとっての意味ということをテーマに、24日はベトナム社会科学院で一日セミナーが開かれ(講演と質疑応答・ディスカッション)、25日は同大学院での講義を行った。社会保障や医療保険を中心に議論したのだが、話題は狭い意味の制度の話にとどまらず、コミュニティの問題や若者の失業・教育問題などにも広く及んで大いに手ごたえがあった。

 しかし、ここでの本題は少し別のところにある。私はもともと、日本でいうところの神社あるいは「鎮守の森」に相当するものが、アジアの各地域、そして究極的には地球上の各地域に広く存在している(していた)はずではないかという関心をもっており、今回のベトナム行きの間に、そうしたことに少しでも触れることができればと期待していた(ちなみに韓国や沖縄での「神社」に相当する場所については岡谷公二『原始の神社を求めて――日本・琉球・済州島』(平凡社新書、2009年)が印象深く、また日本・韓国・台湾の巨木信仰に関しては李春子『神の木――日・韓・台の巨木・老樹信仰』(サンライズ出版、2011年)が詳しい)。

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