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「生態系は幻想」と発言した真意

山極寿一 京都大学総長、ゴリラ研究者

 朝日新聞社による朝日地球環境フォーラムが9月30日、10月1日の両日に開かれ、私は10月1日の「野生動物と人間の明日を探る」という分科会で絵本作家のあべ弘士さんや獣医の須藤明子さんと話をした。そのとき私は、「生態系は幻想だと思う」という発言をした。これは誤解を招きかねない言葉なので、少し説明しておきたい。

拡大10月1日に帝国ホテルで開かれた朝日地球環境フォーラム「野生動物と人間の明日を探る」分科会

 たしかに、この地球上の生物はみな物質とエネルギーの流れの中に位置づけられる。地球に降り注ぐ太陽光を 植物が光合成によって固定し、それを化学エネルギーとして動物たちが消費し、最後は土壌生物 によって熱エネルギーになって放出される。それを系(システム)と呼ぶことに私も異論はない。しかし、個々の動物種をその中に位置づけるとき、単に生態系を維持する役割を担うものとして見なされてはいないだろうか。生きている動物たちは環境の変化に応じて行動を変えるし、他の生物に多大な影響を及ぼす。それぞれの生物種の役割やお互いの関係が決まっている生態系など存在しないのではないか。だから、「幻想ではないか」とあえて問うてみたのである。

 近年、イノシシ、シカ、クマ、サルによる被害が深刻になっている。畑の作物が荒らされるばかりか、これまで大事に保護されてきた貴重な植物種が食いつくされて絶滅の危機に瀕(ひん)している。被害を食い止めるために様々な手が尽くされてきた。電気柵を畑の周りに張り巡らしたり、爆音機で脅かしたり、イヌを使って追いあげたり、果てはいったん捕まえてこらしめてから山に戻すことも試みられている。しかし、被害は軽減せず、これまで姿が見られなかった地域にまで出没するようになった。もはや多くの地域では個体数調整しか手段がなくなっており、毎年すさまじい数の有害鳥獣が捕獲(殺)されている。須藤さんは琵琶湖でカワウを大量に撃つことになった経験から、被害防除と保全を両立させる複雑な思いを語った。

 だが、いったい私たちはどのような生態系を望んでいるのだろう。人間に

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筆者

山極寿一

山極寿一(やまぎわ・じゅいち) 京都大学総長、ゴリラ研究者

京都大学総長。アフリカの各地でゴリラの野外研究に従事し、その行動や生態から人類に特有な社会特徴の由来を探り、霊長類学者の目で社会事件などについても発言してきた。著書に『家族進化論』(東京大学出版会)、『暴力はどこからきたか』(NHKブック ス)、『ゴリラは語る』(講談社)、『野生のゴリラに再会する』(くもん出版)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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