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 54基の原発をもち、電力の30%近くをまかなっていた日本は、2011年3月11日の福島事故を経て、いま、「ゼロ原発」を実現している。なぜ、それが可能になったか。第1は、ピークロード用に発電設備容量をもっていたので、その火力発電を中心として、原発代替用にフル稼働にしているということである。また、ピークカットへの努力も続けられてきた。 

 第2に、全国平均で約10%の節電を達成したことである。この2つが「ゼロ原発」を実現した基本的な要因である。しかし同時に、火力発電増加によるCO2発生増加と燃料費の増加という2つの課題が浮かび上がっている。

 CO2の増加という問題に対しては、より一層の節電とエネルギー効率の向上を図る様々な手段があり、それが新たなビジネスチャンスとなる。天然ガス利用による高効率発電、熱電併給の推進など、インフラ整備として意味のある投資が必要である。原発を続ける場合でも、安全設備、設備改造など膨大な追加投資が必要となる。

 インフラという面では、自家発電の増加、電力会社間の電力融通、発送電分離、なども残された大きな課題である。
燃料費の増加に対しては、電力会社も電力料金の値上げを行い、東京電力や関西電力は、中間決算で3年ぶりの黒字となり、コスト削減も行われた。これまでの総括原価方式の見直しも進められている。

 小泉元首相が「原発ゼロ」を発言する真の狙いは、こうした改革をすすめ、退路を断たせるためであり、「電力事業者という野獣を飢えさせようとする小泉元首相」(『ウオールストリート・ジャーナル』2013年11月7日、日本語版)という評価もでている。

 これに対して、電力会社が原発の再稼働を計画、申請しているのは、それによる収益改善を狙っているからであるが、問題の根はもっと深い。電力会社、経済産業省、原子力関連産業の「原子力ムラ、グループ」が、既得権益を守り、旧民主党政権がすすめた「原発ゼロ」、「革新的エネルギー環境戦略」を破棄し、「原発再稼働と原発輸出」を経済成長戦略の柱としたところにある。

 この場合、原発再稼働と原発輸出によって生ずる様々な経済的経営的リスクを、当該事業者である電力業界や原子力関連産業自らが取るのではなく、国が肩代わりし、保証するというところが、ポイントである。福島の事故処理への国の関与や、ベトナムやトルコへの原発輸出への輸出保険の保証などを見れば明らかである。ノーベル経済学賞学者のジョセフ・スティグリッツが指摘するように、「ミスをしたときのコストを他人が負担する場合、自己欺瞞が助長される。損失は社会に支払わせ、利益は私有化されるようなシステムはリスク管理に失敗する」(『ガーディアン』2011年4月6日)のである。

 これに対して、ドイツが福島事故を契機に、最終的に脱原発に踏み切った理由は、(1)原発は事故になった場合にリスクが大きすぎる、(2)原発以外に安全なエネルギー源がある、(3)脱原発に進むことが、ドイツの経済にも有利である、という判断である(『ドイツ脱原発倫理委員会報告』大月書店)。もともと、ドイツは、石油危機への対応戦略において、政策を進化させながら、環境とエネルギー分野を戦略的に位置づけ、産業・技術・投資政策、雇用政策と政策統合したところが特徴的である。

 ドイツは、第一に、地球温暖化対策と原子力のリスク対策という環境保全の観点からと同時に、エネルギー自給率を高めるというエネルギー政策の視点からの政策が追求され、CHP(熱電併給)など電気と熱エネルギーの総合的なエネルギー政策が検討されていることが重要である。

 第二に、再生可能エネルギーの利用技術と開発で「先導者」となり、世界に技術を輸出し、雇用を生み出すという戦略が存在し、詳細な計画が立てられ、実施されていることである。 ・・・ログインして読む
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筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

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