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基礎科学支援に私財を投じたフレッド・カブリ氏(1927-2013)を悼む

大栗博司 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長 、 カリフォルニア工科大学教授 ・理論物理学研究所所長

 11月21日に、カブリ財団の会長で創設者のフレッド・カブリ氏が逝去されたとの連絡があった。86歳だった。カブリ氏はノルウェー出身の発明家で企業家。2000年に経営から退き、私財を投じてカブリ財団を立ち上げ、基礎科学の研究を支援してきた。カブリ氏の基礎科学振興への貢献を振り返りながら、米国における個人の篤志家の役割について考えてみたい。

 カブリ財団は2000年に米国カリフォルニアにカブリ理論物理学研究所を設立したのを皮切りとして、現在では全世界で17の研究所を支援している。私の参加している東京大学数物連携宇宙研究機構も、昨年2月からこの研究所のネットワークに加わり、カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)と改名になった。これに伴い、カブリ財団からの寄付による基金が設立され、その配当金により研究が助成されるようになった。IPMUは、文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPIプログラム)によって、10年間という時限付きで設立された研究所である。カブリ基金による恒久的な支援の仕組みにより、時限終了後も活動を継続させる基盤ができた。

拡大カブリ数物連携宇宙研究機構の記念式典のあと、談笑するフレッド・カブリ氏(左端)=2012年5月

 米国や英国などの大学には、昔から寄付基金という制度があり、篤志家の寄付による基金を大学が運用して、その運用益を研究や教育に充てる仕組みになっている。元本には手をつけず、運用益のみを使うので、支援が恒久的に続く。「冠教授」というのもこの仕組みでできたもので、アイザック・ニュートンやスティーブン・ホーキングが就いていたことでも有名な英国ケンブリッジ大学の「ルーカス冠教授」はその例だ。ニュートンは2代目のルーカス冠教授で、この教授職は350年も続いていることになる。WEBRONZA執筆者のひとりで、カリフォルニア工科大学で私の同僚でもある下條信輔氏は、「ゲートルード・ボルティモア冠教授」で、これは、同大学の元学長でノーベル生物学賞受賞者でもあるディビッド・ボルティモア氏が、自らの母親を記念するために設立した基金による教授職だ。カブリ財団も米国のいくつかの大学に7つの教授職基金を設立しており、カリフォルニア工科大学では、私が初代の「フレッド・カブリ冠教授」を務めている。

 そのようなわけで、私は、東京大学のカブリIPMUとカリフォルニア工科大学のカブリ教授職の両方で、カブリ財団にお世話になっている。

 カブリ財団とIPMUのつながりができたのは、

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筆者

大栗博司

大栗博司(おおぐり・ひろし) 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長 、 カリフォルニア工科大学教授 ・理論物理学研究所所長

カリフォルニア工科大学ウォルター・バーク理論物理学研究所所長およびフレッド・カブリ冠教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長。アメリカ芸術科学アカデミー会員。1962年生まれ。京都大学理学部卒、東京大学理学博士。プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを歴任。著書に『重力とは何か』『強い力と弱い力』『数学の言葉で世界を見たら』(いずれも幻冬舎)、『大栗先生の超弦理論入門』(ブルーバックス)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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