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[2]「順調」といわれるフランスも、遠い高速炉時代

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 高速増殖炉(FBR)を原発のサイクルに組み込んだ「本当の核燃料サイクル」を実現化している国もないし、実現が近い国もない。その中でフランスはMOX燃料を原発で使うMOXサイクル(軽水炉サイクル)をうまくやっている。なぜほかの国よりうまくできるのか。そして究極の目標であるFBRサイクルに向かうのか。

拡大この細い管にプルトニウム粉末を入れる。メロックスMOX工場で

 フランス南部の都市アビニョンの郊外に、原子力関係の施設があつまったマルクール原子力地区がある。中心はAREVAがもつメロックスMOX工場だ。1995年に本格稼働し、97年から2002年までの6年間、操業許可の上限である「年間100トン」のMOX燃料を製造した。最近は年間140トン。今では世界で唯一の商業規模のMOX工場だが、非常に安定している。

 日常感覚、週に2回のプルトニウム輸送

 防護服に着替え、メロックス工場に入る。腰にガスマスクをぶら下げる。万が一、放射性物質を含んだガスが漏れた場合の備えだ。入り口にプルトニウムを入れる缶のモデルがあった。直径約15センチ、長さ約30センチの円筒形。この中に酸化プルトニウムの粉末3キロを入れる。この缶を縦に5本重ねて溶接する。プルトニウムは計15キロ。ちょうど人間の背の高さほどの「太い竹筒」のような形になる。分厚い重い鋼鉄のドアを開けて工場部分に入る。工場は1年中、24時間、3シフトで動いている。年に1回、メンテナンスのために2~3週間止まる。

 「これがプルトニウムです」。案内のレジ・フォアさんがいう。ある部屋の中に、黄色い円筒形容器が10本並んでいた。円筒の直径は約70センチ、高さ約2メートル。この中に「太い竹筒」が一本入り、周りは衝撃緩衝材で埋められている。円筒容器1本にプルトニウム15キロが入っているので10本で150キロになる。「石油15万トン以上のエネルギー源です」。同時に核兵器20発くらいの材料ともいわれる量だ。円筒容器に触ると、ほのかに暖かい。プルトニウムが出す熱が外側まで伝わってきている。

拡大太い円筒形の筒に細い管が入っている。1本に15キロのプルトニウム。合計で150キロ。メロックスMOX工場で。

  円筒形容器は暖かいものと冷たいものがあった。「この10本は今朝か昨日夕方にここについたばかりです。冷たいものは、すでに中のプルトニウムを取り出してMOX燃料製造用に回したので、空になっているのです」。プルトニウムはフランス北部、ノルマンディー地方の港町・シェルブール近郊にあるラアーグ再処理工場からトラック輸送されてくる。地図上の直線距離で800キロある。「輸送は150キロずつ、平均で週に2回」というから、完全にルーティン化している。

 輸送のスケジュールや警備は秘密だが、かつて筆者は、「ラアーグ工場からシェルブール港までの25キロ」をどんなトラックで運んでいるのかを取材したことがある。日本へのプルトニウム粉末1トンの海上輸送を目前に控えた92年9月のことだ。そのとき、ラアーグ工場の副工場長は自ら「007の小説のようなもの」と言っていた。「特別製トレーラーの運転席は防弾ガラス。車全体が強い装甲で覆われ、連絡用衛星電話がある。ドアは外側から開かず、煙幕、催涙ガスを発射することができる。荷台が分離されそうになると仕掛けてある火薬が爆発して動かなくなる」ということだった。マルクールへの遠距離輸送はこれほどの重装備ではないのかも知れない。ただ「気づかれないような警備をしている」という。

 次は粉末を混ぜる工程だ。制御室からテレビ画面を見ながら遠隔操作で行う。酸化プルトニウムは黒色か濃い茶色の粉末だ。劣化ウランと混ぜると茶色の粉末になる。混合した粉末を炉で焼いてセラミックの燃料ペレットをつくる。

拡大真ん中に見える細い管がプルトニウムとウランの混合酸化物燃料(MOX燃料)。メロックスMOX工場で

ペレットの大きさは直径8ミリ、長さ11ミリの円柱形。自動計測されるが、人によるサンプリング計測も行われる。グローブボックスを使い、ピンセットでペレットをピックアップして、外形と密度を計測する。一定量以上のばらつきがあれば、そのラインを止める。99年、英国のセラフィールドでMOX燃料の検査不正が起きたのは、このマニュアルの検査工程だった。「機械で計測しているのに、なぜマニュアルでもするのか」と検査を煩わしがり、測定しないまま勝手に数字を書きこんでいた。その反省から02年に運転開始した新鋭工場のセラフィールドMOXプラント(SMP)では自動化を進めたが、今度は自動化の部分で故障が相次ぎ、工場はまともに動かなかった。うまくいかないのもだ。

 その辺をメロックス工場はうまくやっている。工場の担当者は「自動化とマニュアル部分をうまく組み合わせることが重要。英国の関係者がもう何十回も視察に来ている。今度英国でMOX工場をつくるときは、メロックス工場の経験をいかして、いい工場ができるはずだ」という。しかし、将来、英国が新しいMOX工場をつくることがあるのだろうか?

 最後に燃料ペレットを金属の鞘(さや)に入れて燃料棒をつくるアセンブリー工程を見た。放射線が高いのでロボットが活躍している。MOX製造のコストを聞くと、工場の担当者は「再処理やMOX製造のコストだけを議論しても意味がない。MOX燃料を使う発電全体でのコストで話すことが重要だ。発電1kWhでいえばMOX利用のコスト高は数%以内」という。

 毎年1200トン中、1000トンを再処理

 フランスでは毎年1200トンの使用済み燃料が出るが、そのうち1000トンを再処理し、取り出した10トンのプルトニウムをMOX利用している。200トンは、「MOX燃料の使用済み燃料」だ。これは、将来、高速炉ができたときには使う予定で保管している。フランスは、日本やドイツより、安くMOXサイクルを続けている。例えば、フランスの電力会社(EDF)の燃料の再処理はドイツや日本がラアーグに委託した再処理料金より安いという。MOX燃料製造でもそうだ。またフランスのMOX利用は90万キロワットタイプの原発だけで行っているのでMOX燃料が標準化され、製造費が安い。

 それでも、MOX利用はウラン燃料利用より「発電コスト全体で数%高い」。つまり、赤字経営だ。それでも続ける理由として、仏原子力庁のビゴ長官は「ウランを10~15%節約できる、高レベル廃棄物の体積を減らせる、使用済み燃料の保管量を減らせるなど、廃棄物管理の全体で考えればメリットがある」という。
フランスは目標を「増殖しない高速炉」においている。将来、高速炉をいくつかつくって、その使用済み燃料を何回も再処理・再利用する時代がくれば、本当の経済性を獲得できる、としている。

 高速炉の原型炉としてアストリッド(ASTRID)という炉の建設計画がある。冷却材はナトリウムかガス。しかし、採算性も建設の必要性も十分でなく、建設は決まっていない。MOXサイクルは多少の赤字で続けていくことができるが、目標である「高速炉サイクル」に向かうことができるかどうかは不透明ということだ。ただ、フランスの場合は、原子力について国民の支持が強い。政府の原子力堅持、サイクル支持の姿勢はまったくぶれないし、日本のように核燃サイクルだけが議論されるということもない。このため、現在のMOXサイクルの変更を求めるような大きな力もない。

 ただ、これからフランスの負担も増える。これまでのように外国からの委託があるわけでもない。古くなった再処理工場やMOX工場の建て替えという問題もでてくる。いまのところ、新しい工場を建てるのではなく、補修しながらいつまでも使っていく計画だという。 ・・・ログインして読む
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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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