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日本の核燃サイクル路線、コスト高でも止まらない理由

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 青森県の六ケ所再処理工場の操業開始が、2013年12月に施行された新規制基準による審査のため、また遅れ、14年10月をめざすことになった。日本の核燃料サイクルは、計画より大きく遅れ、その間の各国の経験から、サイクルの経済性はまったくないことが明らかになってきた。それでも日本は核燃料サイクルを止められない。止められない最大の理由は「止めることが難しいから」としかいいようがない。

 そうした実態が、12月5日に開かれたシンポジウム「核燃料サイクルを考える/日本の選択はどうあるべきか」(朝日新聞社、米プリンストン大学共催)で浮き彫りになった。

拡大シンポジウム「核燃料サイクルを考える」の会場風景。2013年12月5日、東京

 原子力規制委員会の新基準は12月18日に施行された。日本原燃は青森県など地元自治体の了解を得た上で、新基準への適合審査を申請する。しかし、審査は簡単ではなく、少なくとも1年はかかりそうだ。六ケ所工場はもともと97年に運転開始の予定だった。いままで20回の操業延期を重ねている。建設費用も当初の7300億円から、すでに2・2兆円に膨らんだ。遅れれば遅れるほどコストは上昇する。

 12月5日のシンポには筆者も第2セッション(再処理の経済性、安全性)でコーディネーターとして参加した。このセッションで、原子力委員会の鈴木達治郎・委員長代理は、原子力委員会の小委員会でコストを検討した結果を紹介した。

Pu  1グラムの価格=マイナス40ドル

 バックエンド部分(核燃料サイクル部分)の「直接処分」と「再処理・MOX利用」を比べると、前者の方がずいぶん安い。発電1キロワット時当たり、それぞれ1円と1・98円。核燃サイクルの方が2倍かかる。日本が六ケ所再処理工場を40年間運転すれば、「直接処分」を続けるより7~8兆円高くつく。そして現状の経済性を数字で表せば、再処理後の分離プルトニウムの値段は「1グラムでマイナス40ドル」になる。つまり、1グラム使う度にウランを使うより40ドル損をする」ということだ。

拡大鈴木達治郎さん

 鈴木さんは「プルトニウムは需要を明確にして、それにあった分だけ再処理し、保有量を減らしていくべきだ」と述べた。つまり、六ケ所工場をフルに動かすのではなく、プルサーマルの実施が明確な分だけプルトニウムをつくってMOXサイクルを回す、ということだ。ずいぶん昔につくった「使用済み燃料の全量再処理」という古い路線をまずやめるべきだという意見だ。しかし、原子力委員会や原子力委員が何をいおうと政策が変わらないのが日本の特徴だ。

 日本より先に大規模なMOXサイクルを経験したドイツから、クラウス・ヤンバーグさんが出席した。かつてドイツ最大の電力会社RWEなどでサイクルやMOXを担当した技術者だ。ドイツは再処理を英仏に委託して高い再処理料を払うなど日本と条件が似ている。ヤンバーグさんは「私はニューキだった」とユーモアを交えて自己紹介した。Nukiは「原子力小僧」のような感じか。原子力超推進派である。ヤンバーグさんはかつてRWEの代表としてフランス・COGEMAとの再処理契約を担当した。このため、再処理、核燃料サイクルのコストを詳しく検討することになった。その経験から、「少なくとも私の人生の中では高速増殖炉が経済性をもつようにはならないと分かった」と話した。

拡大クラウス・ヤンバーグさん
 

 また核燃料サイクルの中でMOX燃料をつくるコストが極めて高いことを述べ、「ウラン燃料の3倍」というかつてのドイツの比較を示したうえで、「核燃サイクルは高いということを皆さんは知るべきだ」と強調した。
ドイツは再処理やMOX燃料製造をフランス、英国に委託してMOX利用をしていたが、2011年に「2022年までに原発全廃」と原発自体をなくす決定をした。もちろんプルトニウム利用もそれまでに終える。

 フランスは事情が異なる。自前の再処理工場、MOX工場をもち、比較的コストを安くあげてきた。一方、外国からの委託には高い値段を請求した。したがって比較的MOXサイクルを安く実現できているが、それでもウラン燃料を使うより高い。フランスでは「プルトニウムの帳簿上の値段はゼロ」として利用している。

日本は初期の原子力発電で出た使用済み燃料を遠く英仏に送って再処理を委託した。それから出たプルトニウムは同時に両国で少しずつMOX燃料に変え、日本に運ぶことになっている。両国での再処理は終わって計34トンの粉末プルトニウムがあるが、MOX燃料づくりは滞っている。(日本国内にも10トンある)

拡大フランスのメロックスMOX工場。今は世界で唯一の商業規模のMOX工場になった。

 この「外国委託分」のMOX使用が始まったばかりの段階で、3・11が起きた。六ケ所再処理工場を動かして行う日本の自前のサイクルはこれからだ。六ケ所再処理工場の横に建設中のMOX工場を完成させ、原発も再稼働させなければならない。当然ながら、コストは相当に高くなる。

 しかし、サイクル政策が変わる気配はない。当面はプルサーマルを実施し、将来はFBRも実用化しようとしているが、少なくともFBRへの道筋はまったく見えていない。政策を変えない理由は、建前では「資源のない日本にとってプルトニウムは貴重なエネルギー」だが、本当のところは、「長い間、プルトニウム利用をめざして国のシステム、電力業界の予定、原子力メーカーの研究開発などすべてが動いているので変えると混乱する」、あるいは「再処理を止めると使用済み燃料の処理が滞り、原発が動かなくなる」といったところだ。

「六ケ所はやめられない」

 第2セッションのパネリスである山名元・京大教授も「プルトニウム利用が高い」ことを認めている。ただそのうえで「プルトニウムの価値は時代環境と、国際的なエネルギー資源の状況で変わっていく。今はプルトニウムは負債的だが、プルトニウムを使える状態で維持すれば、将来価値をもつ可能性がある。今のコスト計算だけで単純に論じない方がいい」と話した。

拡大青森県にある六ケ所再処理工場。計画が遅れて運転開始の時期が不明。同じ敷地にMOX工場を建設中。
拡大山名元さん

 政策変更については、「そんなに簡単な話ではない」との立場だ。「すでに再処理工場にかなりのお金をかけた。それには青森県の強い協力があった。それを考えなければならない」。つまり、青森などとの協力関係を反故にするとこれまで築きあげてきたものが何もかも崩れてしまう、ということだ。

 かつて、政府、原子力業界の人たちは「核燃料サイクルが高い」ことを認めたがらなかった。今ではだれも否定できない。ただ、それでも政策は変わらない。

 シンポの第3セッションに参加した、フランク・フォンヒッペル米プリンストン大名誉教授は、米国の核燃料サイクル政策に影響力をもっている。「再処理に経済的なメリットはない」と言い切り、「使用済み燃料は各地の原発でキャスクに入れて地上に置く乾式貯蔵をすべきだ」との提言をした。

英国、間違いを認めたがらない政治家

 英国アンドルーズ大学のウイリアム・ウオーカー教授は、失敗続きだった英国の核燃料サイクル政策の歴史を話し、「なぜ失敗したか、なぜそれが修正されなかったのか」を、日本への警告として報告し、会場参加者に衝撃を与えた。(ウオーカー教授が会場で使ったパワーポイント資料のうち2枚を添付)。

拡大ウイリアム・ウオーカーさん

 ウオーカー教授は、核燃料サイクルの時代がくるという予測が全く間違っていたことを説明した。例えば英国では2000年までにFBR実用炉を8基つくるはずだったが、90年代といえば、英国ではふつうの原発さえできない時期だった。もちろんFBRもゼロ。英再処理工場ソープは、英国内でのプルトニウム利用計画がたたないままプルトニウムを生み出し続けた。

 英国議会の政治の監視もお粗末で、いったんOKした計画への厳しい目はなかったという。「『あれは間違っていた』という勇気がなかった。あるいは間違いを認めることは『気恥ずかしいこと』という雰囲気があった」と述べた。ソープの経済性のなさを強く主張していたグリーンピースなど環境保護団体に対して「NGOに負けるわけにはいかない」という感情もあったという。そして研究や試算で、路線が間違っていたことを示唆するものの、路線修正にはつながらなかった。それはつねに「路線を今から変える方が大きなお金がかかる」という都合のいい計算値を出してきたからだ、とも。

拡大
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 何とも情けない内情だが、これを聞きながら筆者は、「何と日本と似ていることか」と思わざるをえなかった。恣意的な計算をして「路線はうまくいっていないが、路線を変えれば、もっと大きなお金がかかる」というやり方は、まさに日本の「政策変更コスト」の理屈そのものだ。政策変更コストは、04年に行われた日本の核燃料サイクルの検討で政府側が持ち出した「核燃料サイクル路線は高いが、止めると、もっと高くつく」という言い分

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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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