2014年02月17日
京都にしては穏やかな、冬の西日の差し込む部屋で1時間の対話が終わるころ、その数学者ははにかむように微笑んで言った。「実は、何をお話したらいいんだろうと、お会いするまでは本当に緊張していたんです。あまりほかの分野の人に会う生活もしていませんし。でも、楽しい時間を過ごせてほっとしました….」
日本数学会のJournalist in Residence(JIR)というプログラムを利用し、2013年11月の統計数理研究所に引き続き、2014年1月の3日間、京都大学大学院理学研究科/理学部数学教室と数理解析研究所に滞在した。
JIRは、ひと味変わった「数学を伝える」試みだ。これまで私が参加したアウトリーチ活動の多くは、大学の研究者が大学の外に出て行って、もしくは大学に広く参加者を集めて、一般向けに研究内容をわかりやすい言葉で伝えるタイプのものだ。双方向性ということも言われるが、研究者が伝えたいと考えている情報の受け手という枠組みを外すのはなかなか難しい。
これに対し、JIRはむしろ参加者を研究者の集団に呼び込んで伝える。しかも、必ずしも広報活動を担わない研究者が、参加者に研究内容を伝えるのである。参加者のバックグラウンドも様々だから、研究者は、参加者の関心に応じた伝え方を求められる。
私の参加の動機は、数学という営みのなかの人間的な個性を発見したいというものだった。数学は、厳密な論理性が要求されるゆえに、数学の営みの中に一点のあいまいさや個性はないとも思われがちである(たぶん、法律家の多くはそう想像している)。しかし、そうではないだろうと私は思った。そして数学者の個性は数学のどういう点に現れるのかを知りたかった。
数学が、ほかの分野に比べて非常に厳密な方法論を持つことは、やはりはっきりしている。それを3日間の滞在中にも痛感した。たとえば、
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