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投下6年後に出版された『原子爆弾の医学的影響』がネットで無料入手可能に<下>

長瀧重信 長崎大学名誉教授(放射線の健康影響)

被爆者と被曝者、ヒバクシャ

 現在、原爆による死亡者は、広島・長崎を合わせて21万人、一方東京大空襲の死亡者は10万人とされています。両者ともに爆弾による爆風、熱傷、さらに火災によって死亡していますが、戦災者の中で東京大空襲の被災者は援護せず、原爆被爆者だけを援護の対象とするという戦後の政府の方針から、両者を区別するために放射線の影響のみが援護の条件とされてきました。

 原爆症 は、放射線起因性のある疾患に限定されています。原子爆弾による「被爆者」の中から放射線被ばくによる「被ばく者」が援護の対象となり、この流れで世界で使われている「ヒバクシャ」は放射線の被ばく者を指すようになっています 。援護のための政治的な線引きが、「原爆の影響はすべて放射線の影響」という感覚を日本の社会に定着させ、さらに戦後の大気圏内原爆実験で世界中に広がった放射性降下物に対する恐怖から、世界中で「原爆の影響はすべて放射線の影響」という感覚が定着しています。

 福島原発事故は広島原爆の200倍の放射性物質を放出した、あるいはチェルノブイリでは広島原爆の2000倍の放射性物質が放出されたという話を主張する学者もいますし、新聞にもこのような表現がしばしば使われます。この主張は、放射線を中心とした机上の計算だけの主張です。原爆では、爆風、熱線、放射線の3つの原因が組み合わさった結果20万人以上が死亡しました。放射線の影響だけでこれほど多くの人が死んだわけではありません。福島原発事故の死者が広島原爆の200倍とすれば、4000万人になり東北の住民はすべて死亡することになりますし、チェルノブイリでも2000倍は4億人となり、ソ連邦の住民はすべて死亡したことになってしまいます。原発事故の被害を、放射線の量だけで原爆の200倍と計算するのは, 大きな誤解です。原爆という爆弾で沢山の方々が亡くなったことを忘れてしまった議論です。 多くの死者を忘れるほど、日本の中で原爆の被害が風化していることも認識させてくれます。

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筆者

長瀧重信

長瀧重信(ながたき・しげのぶ) 長崎大学名誉教授(放射線の健康影響)

長崎大学名誉教授。1932年生まれ。東京大学医学部卒業。東大大学院、米ハーバード大学などで学んだ後、東大医学部付属病院外来医長などを経て、長崎大学医学部教授(内科学第一教室)、放射線影響研究所理事長を務めた。長崎大学時代に被爆者の治療、調査にあたった経験を踏まえて、旧ソ連チェルノブイリ原発事故がもたらした健康被害の調査活動や東海村JCO臨界事故周辺住民の健康管理にかかわった。 【2016年11月12日、逝去】

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