2014年02月19日
現在、原爆による死亡者は、広島・長崎を合わせて21万人、一方東京大空襲の死亡者は10万人とされています。両者ともに爆弾による爆風、熱傷、さらに火災によって死亡していますが、戦災者の中で東京大空襲の被災者は援護せず、原爆被爆者だけを援護の対象とするという戦後の政府の方針から、両者を区別するために放射線の影響のみが援護の条件とされてきました。
原爆症 は、放射線起因性のある疾患に限定されています。原子爆弾による「被爆者」の中から放射線被ばくによる「被ばく者」が援護の対象となり、この流れで世界で使われている「ヒバクシャ」は放射線の被ばく者を指すようになっています 。援護のための政治的な線引きが、「原爆の影響はすべて放射線の影響」という感覚を日本の社会に定着させ、さらに戦後の大気圏内原爆実験で世界中に広がった放射性降下物に対する恐怖から、世界中で「原爆の影響はすべて放射線の影響」という感覚が定着しています。
福島原発事故は広島原爆の200倍の放射性物質を放出した、あるいはチェルノブイリでは広島原爆の2000倍の放射性物質が放出されたという話を主張する学者もいますし、新聞にもこのような表現がしばしば使われます。この主張は、放射線を中心とした机上の計算だけの主張です。原爆では、爆風、熱線、放射線の3つの原因が組み合わさった結果20万人以上が死亡しました。放射線の影響だけでこれほど多くの人が死んだわけではありません。福島原発事故の死者が広島原爆の200倍とすれば、4000万人になり東北の住民はすべて死亡することになりますし、チェルノブイリでも2000倍は4億人となり、ソ連邦の住民はすべて死亡したことになってしまいます。原発事故の被害を、放射線の量だけで原爆の200倍と計算するのは, 大きな誤解です。原爆という爆弾で沢山の方々が亡くなったことを忘れてしまった議論です。 多くの死者を忘れるほど、日本の中で原爆の被害が風化していることも認識させてくれます。
『原子爆弾の医学的影響』全6冊は、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください