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佐村河内事件は何を提起しているか〜カバーストーリーとコンテンツ

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 冬季オリンピックや東京都知事選にかき消されてしまった感はあるが、「全聾作曲家」の代作事件は、きわめて現代的な問題を提起した。 消費者(聴取者)は「何に金を払ったのか?」というマーケティングの観点と、創造性は「誰に帰せられるのか?」という認知科学的な観点から、掘り下げてみたい。ただそのためには、この「事件」のディテールがむしろ重要になる。

 佐村河内守(敬称略)は、ゲームソフトの主題曲で脚光を浴び、被爆者の両親を持つ「全聾(ろう)の天才作曲家」として登場。『交響曲第1番 <HIROSHIMA>』 や、東日本大震災の被災者へ向けたピアノ曲『レクイエム』など、話題性に富んだ作曲で時代の寵児となり、日本のベートーベンともてはやされた。ただかねてから一部では、本当に全聾なのかと疑問が提起されていた(『アエラ』2月17日号記事などによる)。ここへきて「全聾の作曲家はペテン師」という衝撃記事の『週刊文春』掲載(2月6日発売)と同時に、ゴーストライターだった新垣隆(桐朋学園非常勤講師;敬称略)が会見。代作の実情を暴露した。

 会見の要点は以下の通りだ(筆者によるまとめ)。

拡大会見を終え退席する新垣隆氏=6日午後、東京都千代田区

* 佐村河内の耳は聞こえていた。普通の会話で自分の要求を作曲者=新垣に伝えた。時には新垣が作曲し録音したものを聴かせ、やり取りをした。
* 佐村河内のピアノ演奏能力は非常に初歩的なレベルで、楽譜も全く書けない。
* 佐村河内は指示書(図表)や口頭で、曲のイメージを伝えていた(筆者注:この図表については、自筆でないとの証言もあるらしい)。図表などの指示がない場合もあった。
* 佐村河内はプロデューサーのような立場だった。佐村河内のアイディアを新垣が曲にした。佐村河内は自分のキャラクターを「作って」世に出した。
* CDの解説などにある佐村河内との出会いのエピソードは、ほとんどがウソ。

 新垣氏の証言の真偽を問う材料を筆者は持たないが、(佐村河内本人と一部メディアが合作した)虚像に比べれば、こちらの方が真相に近いのは確かだろう。

 問題の発覚を受けて、予定されていたコンサートは全て中止、レコード会社がCDの出荷やインターネット配信を停止、自伝も絶版とするなど、各方面が対応に追われた(以下、ウィキペディア他による)。 CD発売元の「日本コロムビア」には、購入者から返金を求める電話も殺到しているという。クラシックとしては例外的なヒットメーカーだったため経済的損害も大きく、一部メディアでは賠償請求総額「3億円」という数字まで出ている。 広島市が2008年に佐村河内に授与した「広島市民賞」を取り消すなど、栄誉の剥奪、評価のし直し、という方向に全体が動いている。

 興味深いのは、立場によって受け止め方がかなり違う点だ。

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

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