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東大発ものづくりベンチャーが躍進!米国のベンチャーの祭典で大注目

鎌田 富久 TomyK Ltd.代表

 米国テキサス州オースチンで開催されるハイテクベンチャーの祭典SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)インタラクティブは、毎年できたてのベンチャーが新しい技術や製品を持ち込むイベントだ。ここで評判になると、一気に立ち上がる。TwitterやFoursquareなどSXSWをきっかけにブレイクした新サービスは数多い。2014年は3月7日から11日まで開催され、インターネットと身の回りの様々な機器を結びつけるサービスが多数出展されていた。

 その中で今年の注目は、東京大学に関連するベンチャーがTrade Show に6チーム参加し、大きな展示会場の一角に東大発のベンチャーのコーナーができたことだ。そこでは目を引く展示が並び、米国のメジャーなメディアでさっそく取り上げられた。

「TODAI TO TEXAS」プロジェクト 

 東大発のスタートアップも、国際的なイベントに積極的に出て行って、自分達の製品や技術、ヴィジョンを伝えて、視野を広げよう-こうした志を持つ人たちが集まり、昨年12月に「TODAI TO TEXAS」プロジェクトが始まった。この名をつけたのは、当初からテキサス州で開かれるSXSWインタラクティブTrade Showをターゲットとしたからである。東京大学の産学連携本部のサポートもあり、6チームが出展することになった。

 この機会を最大限活用すべく、米国最大のクラウドファンディングKickstarterを利用して、製品の事前予約の準備も進め、SXSWに合わせて3つのプロジェクトをKickstarterで開始することができた。わずか3ヶ月という期間で、メンバーは不眠不休で準備して、オースチンにやって来たという訳だ。

 SXSWはとくかく巨大なイベントで、数百のセッションが平行して行われ、Trade Showでも数多くの企業が出展してしのぎを削っている。その中で注目を集めるのは大変なことだが、東大発ベンチャーのコーナーには、多くの来場客が訪れ大変にぎわっていた。さっそく6チームを見てみよう。

米国テキサス州オースチンで開かれたSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)の会場風景

夢のある個性的なチームがそろう

1. ハイテクビリヤードOpenPool
 ビリヤード台にプロジェクション(画像投影)とサウンドを組み合わせてエフェクト(効果)を演出し、全く新しいビリヤード体験を実現する。センサーとプロジェクターを既存のビリヤード台に設置して、ソフトウェアを開発した。昨年SXSWに出展して注目され、さらに進化した版を今年も出展。Kickstarterでファンディング中

 ソースコードを公開しているので、例えば、会社のレクリエーション向けに導入して、自前でソフトを拡張してアレンジすると、学びと遊びを兼ねて使えそうだ。SXSW Interactive Awards のAmusement部門で最終候補(finalist)に選ばれた。惜しくも受賞は逃したが、多くのメディアに取り上げられた。

2. 電子回路を印刷するAgIC 

 家庭用のプリンターで電子回路を印刷するキット(専用インク、専用用紙、ペン、部品をまとめたセット)を開発した。3Dプリンターで、プロトタイプ開発が簡単にできるようになったが、最後に残っているのが電子回路のプリント基盤の開発。これまでは専門のプリント基盤の製造業者に依頼していたような電子回路を家庭用のプリンターで簡単に自分で作成きるようになる。3月3日からKickstarterで事前予約を開始して、わずか5日でゴールの3万ドルを達成した。SXSWでは、その場で購入する人も多く、かなりニーズがありそうだ。

3. 超小型人工衛星Axelspace

 超小型の人工衛星は、まさに日本のものづくりのなせる技だ。昨年11月にウェザーニューズ社向けの地球監視衛星WNISAT-1の打ち上げに成功した。そのWNISAT-1の実物大の模型を展示。人工衛星の開発といえば、数百億円はかかるイメージだが、機能を絞り、コンパクトに実装して2〜3億円で実現する。「自分の人工衛星を打ち上げませんか」言われた来場者はびっくり。もう10年もすれば、宇宙はもっと身近になり、様々な場面で、人工衛星は活用されるだろう。さらなる飛躍に向けて準備中だ。

1.ハイテクビリヤードOpen Pool
2.電子回路を印刷するAgIC
3.超小型人工衛星Axelspace

4. ウェアラブルなおもちゃ Moff 

 手首に装着するリストバンド型のデバイスで、モーションセンサーで動きを感知し、スマートフォンと通信してすべての動きがサウンド(効果音)と連携する仕組みになっている。「電子銃」「剣」「ギター」など、いろんな遊びができるスマートトイだ。キャラクターコンテンツと連携するなど、応用は無限大、新しい遊びのプラットフォームを作ろうという訳だ。3月11日からKickstarterで事前予約を開始して、わずか2日でゴールの2万ドルを達成した。会場では、子供が試作機で遊んで大喜び。買って帰りたいとお願いされるほど。7月頃に製品出荷予定。

5. セッション演奏デバイス BOMB

 電子音楽のセッション演奏をもっと簡単にコントロールするための機器がBOMB(Beat Of Magic Box)だ。シンプルにビートやスタイルを調節できる。また、複数の機器が無線通信で連携することによって、シンクロして面白いサウンドを作り出す。簡単に持ち運べて、いつでもどこでも演奏できる。電子音楽マニアでなくても、さわってみたくなること請け合いだ。

6. 動作拡大型スーツ Skeletonics 

 「みんなをロボットに乗せたい」という思いから開発した人間の動作を拡大する外骨格ロボットだ。モーターなどの動力なしで、腕や足の動きに連動するリンク機構で人間の動作を拡大する。これを装着して動くと、まさにロボットアニメの世界。デモの時間には、あっという間に会場は見物客でいっぱい。取材に来ていたアメリカのテレビ局から番組に出演してほしいと依頼されるなど大人気だった。具体的に、アミューズメント向けに使いたいというビジネスが進んでいる。

4.ウェアラブルなおもちゃMoff
5.セッション演奏デバイスBOMB
6.動作拡大型スーツSkeletonics

 上記6チームすべてが、ものづくり系というのが面白い。ロボットや人工衛星から、ビリヤード、おもちゃまで、バラエティに富んでいる。会場でもっとも混雑しているコーナーであった。これら以外にも、日本から有力なベンチャーの参加は増えている。若い人たちがどんどん海外に出て実力を試すというのは良いことだ。イノベーションに敏感な潜在ユーザーの意見を直接聞くことで新たなヒントも生まれるし、ビジネスチャンスも広がる。慣れない英語で熱い思いを伝えるのも良い経験だ。

ものづくりベンチャーの新潮流

 日本のみならず世界でものづくりベンチャーが増えているのは偶然ではなく、新たな潮流が加速しているからだ。SXSWでも、腕時計型やメガネ型のデバイスや、ヘルスヘア向けのウェアラブルデバイスなどが多数発表されていた。

 スマートフォン、タブレットの普及とともに、オープンソース活用の浸透、クラウド型の開発環境、格安のクラウドサービス、アプリの流通プラットフォーム、SNSによるPRやマーケティングといった要素が組み合わさり、まずソフトウェアベンチャーが格段に起業しやすくなった。SXSWでも、Twitterが出て来た頃には、ソフトウェアのスタートアップが多かった。

 さらに、これらの変革に加えて、以下の要素が加わり、「MAKERムーブメント」が数年前から進行し、実際にものづくりベンチャーが増えてきている。

・ハードウェア開発が容易に
 手頃な価格の3Dプリンター、3Dスキャナー、レーザーカッター、簡易CNC(コンピュータ数値制御)装置などの出現により、個人やスタートアップでもハードウェア部品を開発しやすくなった。また、これらの装置が整備されたファブラボ(fabrication Laboratory)を利用すれば、装置を買う必要もない。ものづくりベンチャーは、プロトタイプや試作段階で、様々なアイデアを低コストで試せるようになった。

・ネット販売・流通革命
 ハードウェア商品を扱う際の1つのハードルは、在庫管理や、販売ルート、発送などの一連の業務だ。20年前には、資本力がないとなかなか手が出せなかった領域だ。ところが、Amazonをはじめとするネット販売は、この状況を一変させた。製品を組立工場で梱包して、Amazonに直接送れば、在庫管理から代金決済、発送まですべてやってくれる。手数料も手頃だ。ベンチャー企業は、販売以降のプロセスを委託することで、製品開発に集中できる。

・事前予約に使えるクラウドファンディング
 とは言うものの、ある程度の数量のハードウェア製品を製造するには、実際に資金が必要になる。ソフトウェアとは違うところだ。この部分を補う仕組みとして、クラウドファンディングが使える。米KickstarterやIndiegogoが有名だ。自分達が開発しようとしている製品を具体的に提案し、それをほしい人を事前に募る。これは、同時にファンを作ることにもなり、市場の関心のバロメーターにもなる。

 こうして、ものづくりベンチャーが出てくる環境が整った。また、日本には、ものづくりが好きな、ものづくりを大事にする文化がある。現在でも、町工場的な中小企業も数多くあるし、組み立てを請け負ってくれる工場もある。ベンチャー企業だけでは難しい部分を、こうした熟練した老舗企業や、個人の方がやさしく手伝ってくれるのも日本ならではの協力体制である。定年を迎えたシニアの方が、20代の若者とコラボするのも微笑ましい。

 日本のものづくり産業全体としても、大量生産、大量消費の高度成長時代のシステムから、多様化した人々の嗜好に合わせ、本当にほしいものを提供する、毎日が楽しくなる、人生を豊かにしてくれる製品やサービスを生み出すものづくりへと変革すべきである。本稿で紹介したように、ものづくりベンチャーは今後も増えていくことが期待できる。次に、ものづくりベンチャーの成長段階の課題は、やはりスケールアップする際の量産ノウハウや資金になる。こうした段階で、大企業との連携やコラボレーション、M&Aが非常に重要だ。

 昨年末に東大発ロボットベンチャーSCHAFTが、DARPAロボコンに優勝、Googleに買収といったニュースが話題となった。東大発ものづくりベンチャーの動向に今後も注目だ。