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高レベル放射性廃棄物を環境・廃棄物経済学から考える

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

  原子力利用に伴う長期的リスクとして高レベル放射性廃棄物問題がある。この問題について、原子力委員会から日本学術会議に対して、審議依頼が行われた(2010年9月)。とくに「地層処分施設選定に関する説明や情報提供のあり方」の提言を求めた。これに対する回答が『高レベル放射性廃棄物の処分について』(2012年9月)として公表された。

この回答は高レベル放射性廃棄物の「暫定保管」と「総量管理」を提案したものとして注目された。現在、回答のフォローアップ委員会が行われており、私も参考人として意見を述べる機会があった(2014年4月14日)。
私の報告の目的は次の3点であった。
(1)学術会議回答『高レベル放射性廃棄物の処分について』を、環境・廃棄物経済学から補足・補強する立場から報告する。
(2)日本の「辺境」である北海道に36年間、居住生活し、研究してきた見聞・研究結果に基づき報告する。

拡大日本原子力研究開発機構(旧核燃料サイクル機構)の幌延深地層研究センター

(3)プルトニウム(東海村、セラフィールド)を見た経済学者として核燃料再処理と高レベル放射性廃棄物問題を考える。

学術会議「回答」における「現状および問題点」認識

 学術会議「回答」における「現状および問題点」認識で一番重要な指摘は、「エネルギー政策・原子力政策における社会的合意の欠如のまま、高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定への合意形成を求めるという転倒した手続き」にあったという点である。北海道における幌延問題(1980年代から)、大間原発立地への函館市の訴訟に見られるように、経済的誘導策が先行し、地元周辺からの反対に遭遇するというパターンが繰り返され、地元の範囲が実際に影響を受ける範囲よりも極めて狭いという問題が背景にある。

 環境経済学・廃棄物経済学の立場から「通常の廃棄物の処理、処分の原則」を考えると、以下のような点が重要な原則である。

• 廃棄物の無害化処理、処分の原則
• 工場立地と廃棄物処理・処分場の確保
• 廃棄物発生者の第1次的発生者責任と費用負担
• 廃棄物処分場の管理責任
• 「廃棄物のフロー」と「廃棄物のストック」の区別と関連をつける
• 天然資源の消費を控え、環境負荷をできる限り下げる⇒3R(reduce, reuse,recycle)原則
以上は、「廃棄物処理法」「循環型社会形成推進基本法」で詳細に規定されているが、放射性廃棄物は、そこから除外されてきた。

 これに対して、放射性廃棄物の特性は以下の諸点と問題にあるといわれてきた。

拡大

• 有害性の除去の困難性
• 人類生存圏からの隔離可能性?
• 超長期にわたる管理・保管の必要性
• 使用済み核燃料の再処理、プルトニウムの分離と高レベル放射性廃棄物の発生
• 軍事利用と関連する問題
• 廃炉と事故炉(福島)の処理問題
• 制度上の問題:国策民営、発生者責任の不明確、処分地選定の先行
以上の諸点を念頭において、学術会議回答の提起に沿って議論する。

(1) 高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し 

 「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(2000年)で、地層処分の方針が出されたが、原子力委員会による使用済み核燃料の「全量再処理」方針の見直し(2011年以降)も検討中である。日本では、「再処理」を行うという基本方針のために、結果として高レベル放射性廃棄物が発生するので、従来の政策枠組みの抜本的見直しが必要である。多額の費用と期間をかけても、再処理施設が完成せず、高速増殖炉も完成の見通しすらないにも関わらず、再処理方針の抜本的見直しが先延ばしされている問題があり、日本的「プロジェクト不滅の法則」、「無責任の体系」(丸山眞男)と指摘される問題群であり、回答が高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直しを提言しているのは当然である。

(2)科学・技術的能力の限界の認識と科学的自律性の確保

 回答は、「科学・技術的能力の限界の認識と科学的自律性の確保」を提言し、「超長期にわたる安全性と危険性に関する科学的知見の限界」、「自律性のある科学者集団(認識共同体)による、専門的独立的検討、討論の場確保」を提言しているのは、これまた当然のことである。日本における各省庁の諮問機関である審議会方式の問題と限界があり、ドイツのような、原子力以外の専門家による倫理委員会や国会アンケート委員会をつくり、公聴会を開き、専門家が政治家・国民と対話できる場をつくるべきである。

(3)暫定保管・総量管理を柱とした政策枠組みの再構築

 回答は、「原子力政策に関する大局的方針について国民的合意が欠如したまま、最終処分地選定という個別的な問題を先行」してきたと指摘し、これに対して「高レベル放射性廃棄物」の「暫定保管」と「総量管理」を提言している。
「暫定保管」に関しては、現段階における有害性の除去と超長期にわたる管理の必要性を考えると、処理技術の進歩を考え、また管理のために、取り出し可能な形で「暫定保管」することを検討すべきである。
「総量管理」に関しては、廃棄物のスットクとフローを考慮して、とりあえずすでに発生しているストック分だけでも処理量と方法を検討する。フロー発生分については、脱原発を巡る国民的議論と決定が必要である。

(4)負担の公平性に対する説得力ある政策決定手続きの必要性

 回答は「負担の公平性に対する説得力ある政策決定手続きの必要性」を提言し、「従来方式では受益圏と受苦圏が分離する不公平」、「電源3法などの金銭的誘導方式の限界と問題」を指摘し、「負担の公平・不公平問題への対処、科学的知見を反映させる方法」を提言している。 ・・・ログインして読む
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筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

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