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もっともっと使える再生可能エネルギー、エコ賃貸住宅の挑戦

小林光 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

 我が国でも海外でも、健康な社会、防災性能の高い社会、地球環境と共生できる社会、そして経済的にも恵まれている社会の具体化が強く望まれている。そのためには、今までとは異なる資源やエネルギーの使い方を実現しないとならない。このイニシアチブを取れるのは、需要側こそではないか。八方美人、悪く言えば「いけず」の、もうひとつ煮え切らないエネルギー基本計画が決定されたことに伴い、そうした意を一層強くした。なんとなれば、エネルギーの需要側から見る気になれば、まだまだ未開拓の再生可能エネルギー活用チャンスが存在することが分かるからである。例えば、賃貸住宅での再生可能エネルギー利用は、未開の領域の一つである。そこで、ここでは、論者が手掛けるエコ賃貸を紹介し、再生可能エネルギーの開拓のチャンスの具体化方法を考察したい。

ちょっと淋しいエネルギー基本計画

拡大我がエコ賃貸、羽根木テラス・BIO

 去る4月11日、政府はエネルギー基本計画を閣議決定した。エネルギー政策の根幹の考えを定める重要な計画だが、それゆえに、3.11以降、3年を数える混迷が続く中で、その策定は延び延びとなっていたものである。では、満を持して登場した、優れた内容であったかと言うと、大方の反応はそうではなかった。いろいろな狙いを併せ呑み込んで、結局、現状をどう変えるかの基本の考えのはっきりしない、メリハリに乏しい、当り障りのない文章になってしまった。

 特にその感が著しいのは、再生可能エネルギーの利用の目標への数量的な言及を欠いたことである。策定準備プロセスの終盤になって、環境を重視する与党議員が強く主張する一幕があり、表現は追加されたが、結局、これまでに公表された水準を上回る水準での導入を目指し、具体的なエネルギー・ポートフォリオ(エネルギー・ミックス)を策定するプロセスの中で明らかにする、といった先延ばしになってしまった。

 論者としては、3.11以降の、国民にとって強烈であった停電体験を踏まえれば、身近で使われることが多い再生可能エネルギーにこそ、まずもって導入目標を定め、その達成を前提に政策を組み立てることを考えればよいのに、と思うが、現実には、どうも逆で、エネルギー量当たりの価格を低めに誘導することが優先され、まずもって方針がはっきりしたのは、原子力や石炭と言った電力を、3.11以前と同様に、引き続きベースロード電源として活用して電力供給を行うということであった。基本計画のまなざしは、供給側に、そして、大口の需要家に向けられていたのであった。

 これらの点を若干掘り下げてみたい。まず、これまでに出された再生可能エネルギーの目標的な数値を見てみよう。それは、2010年6月に、総合資源エネルギー調査会に出された資料(「2030年のエネルギー需給の姿))にある、略記すれば「2030年において電力中の再生エネルギー起源のものの割合を概ね2割にする」というものである。ところで、この数値は、デンマークやスペインを引くまでもなく、エネルギー・ポートフォリオが3.11前の我が国に比較的似ている英国における目標と比べてさえも大きく劣るものである。

 英国では、同じ2030年には、電力中の再生エネルギー起源のものの割合を30%にすることを既に定め、本欄に2月末に掲載したように力強い取り組みを展開している。再生エネルギー活用技術を積極的に開発、投入しようとする国際動向、国際競争に我が国も棹差すのであれば、2割目標では弱過ぎると言えよう。今後のエネルギー・ポートフォリオづくりにおいては政策当局の奮起を期待したい。

 他方で、石炭、原子力といった安価と称されるエネルギー源による電力供給を重視することは、その目的とする高い経済成長の実現にとって大きな力となるのであろうか。これにも疑問符が付く。

 生産原価の低廉化には、原材料、投入資源の安値が寄与することは言うまでもないが、原価に占めるエネルギー費用を見ようと有価証券報告書を参照すると、例えば、日本の競争力ある産業である機械、輸送機器などにおける代表格の、トヨタ自動車の報告書では、エネルギー価格高騰は数あるリスク要因の一つにも位置づけられてもいず、したがって数値もなかった。ハイブリッド車などの燃費に優れた車種の優位性の背景にエネルギー価格の上昇があって、むしろ商機としての位置づけであることが垣間見えた。エネルギー費用が総経費に占める割合はおそらくわずかで、その変動が競争力を左右するほどのインパクトは到底なさそうである。

 ごく最近のデータでは、日本全体のマクロのエネルギー輸入支払額も、円建てエネルギー単価の増高にもかかわらず、減少に転じたようで、それには、省エネの進展が効いていそうである。安いエネルギー供給による経済活性化効果は、定性的には言えても、化石燃料で発電する電力各社以外には、定量的には余り見込めないのではないのではないか。

 しかし、それでも、エネルギー基本計画では、安いことは良いことだと、かねてからの信念は維持された。

 結局、震災の経験にもかかわらず、エネルギー政策を大きくは変えない、というのが、エネルギー基本計画のメッセージであるように残念ながら思われてしまうのである。

エネルギーは皆同じで、違いは価格だけなのか?

 論者が、環境省の役人時代、自民党の川口順子元大臣を始めとした各政党の国会議員の方々に御指導をいただいて手掛けた法制度、政策に、環境配慮契約法がある。この仕組みは、一例を挙げれば、製造段階でCO2を多量に出す石炭火力発電による電力と、製造段階ではCO2を排出しない風力発電の電力とを比べたときに、石炭火力発電が安価であっても、それを例えば政府が購入してしまうと、政府に帰属するCO2排出量が大幅に増えてしまい、政府が自らに課する排出量低減目標の達成には、相対的に高価な手段である省エネ対策をせざるを得なくなり、結局、国民から預かっている税金を余分に使ってしまうことを頭に置いて、値段は高くてもきれいな電力を選ぶことのできる手続きを定めたものである。安物買いの銭失い、を避けるのである。

 同じ物なら安い物を選べとするのが会計法であって、いわばその特別法が環境配慮契約法である。つまり、J(ジュール)という単位で見れば、あらゆる電力は同じでも、それぞれに違う価値を持つものだ、ということを認め、その熱量以外の価値にも費用を払うことを積極的に許したのである。

 価値あるものへ高い値段を払う。当たり前であり、また、経済学が明らかにしたように、価格メカニズムによって貴重な財貨が最も効率的に使われるよう社会成員間に配分されることの、前提になる重要な考えでもある。

 しかし、このイロハのイのような考えが、こと環境となると通用しないことが多い。ある会議の席で私は、本欄既報の英国の、再生可能エネルギーの導入に向けた熱心な取組みを紹介するとともに、その取組みが、同国の雇用増進、経済成長率の押し上げや貿易赤字の削減に寄与していることを同国の産業団体のレポートを引用する形で紹介した。そうしたところ、同席していらっしゃった、高名なエネルギー専門家から御異論を頂戴した。

 一所懸命投資しているときに経済が盛り上がっても、結局高い価格のエネルギーに依存することになれば、経済は冷えるに決まっている、そうした、将来の、あるいは波及的な悪影響も考え合わせたネットの損得では、損になるということは経済学者なら皆認めている、といったような御議論だった。

 席の雰囲気もあったので、私も敢えて礼を欠く議論をしなかった。しかし、環境にお金を使うのは反経済だと単純に信じている人が、エネルギー分野の方々には多いのだなあ、と改めて感じた。

 例えば、1960年代後半の話だが、排ガス中の窒素酸化物を90%カットできる、マスキー法に適合した乗用車が売り出された時、乗用車の価格は、それまでのものに比べて10万円(政策減税を受けた後でもおそらく数万円)近く高かったと記憶する。しかし、その結果、日本のあるいは世界の自動車産業は衰退しただろうか。また言おう。1990年代後半のプリウスの発売はどうだったか。これも、在来車種に比べ優に10万円以上も高い価格設定であった。トヨタ自動車は衰退しただろうか。いや、日本の自動車産業は世界に雄飛したし、ハイブリッド車は、国際標準化した。

 こう述べると、それは、自動車についてのたまたまの話だ、と言う人がいる。けれども、自動車だけのサクセスストーリーでないというのが、論者の実感である。

 我が国の高度成長期においては、実は、併行して、世界で最も厳しいと言われた公害規制が、自動車だけでなく、工場にも課されていった。一時は、世界の設置数の9割が日本にあるとまで言われた排煙脱硫装置を始め、多くの公害防止装置が設けられた。これらは、何も生産せず、したがって、製造コストは大きく上昇したはずだ。各企業は、歯を食いしばって、公害対策の経済的負担に耐えた。

 価格が高くなってマクロ経済を冷やす効果が見込まれたけれども、実際のGDPは、公害対策なしの場合をシミュレーションしたものより、なんと、増加していたのであった。それは、誰かの出費は誰かの収入であり、そうした所得増加による波及効果が、資源の完全雇用下であるはずの高度成長期ですら、高価格が経済を冷やす効果を凌いだのであった。つまり、公害対策ビジネスと言う新しいビジネスが生まれたのである。

 今はまして、失業がある不完全雇用経済である。環境をビジネスにして、何の懸念があると言うのだろうか。

やはり難しい環境ビジネス、突破策を探るエコ賃貸を始めてみた

 世の中には、グリッド・パリティという言い方がある。例えば、太陽光発電の電力の価格が、大規模火力発電所で化石燃料を焚いて生み出す電力の価格と同等にならないと、太陽光発電は普及しない、という考えである。しかし、この考えはおかしくないだろうか。

 おかしい点とは、まずもって、再生可能エネルギーの持つエネルギー以外の価値はゼロとしていることである。もっと言えば、従来からの電力では、化石燃料を焚くことによって引き起こされる地球温暖化の被害などを防ぐ費用を無視した不当に安い価格づけが行われていて、環境の価値とはタダ以下の扱いになっている。太陽光発電の価格が安いに越したことはないが、歪んだ土俵での、こうした比較に固執することは、現状肯定の色眼鏡、マインドセットに過ぎない。

 では、眼鏡を捨てて、エネルギー以外の価値にも敢えてお金を払うとすると、いけないことが起こるのだろうか。確かに、そのことによって失うものがないわけではない。失うものは、環境を壊すことでこれまで得てきた、バブルなような見掛け上の利益である。他方、得られるようになるのは、まさに今、英国が意識的に追及している、また、日本でもかつて経験のある、環境を守ることによって得られる利益である。再生可能エネルギーという言葉が含意するように、環境を守って得られる利益の長期的な累計は、生産の基盤である環境を壊して得る一過性の利益の累計値を上回る。

 長い目で見れば、環境に価値を見出し、費用を払うことは有益である。けれども、エネルギーの専門家ですら呪縛されてしまうマインドセットの力はなお強い。つまり、難しいのは、ゴール自体ではなくそこへ至る道筋、新価値システムへの移行の仕方なのである。

 この移行が特に遅れているのが、賃貸住宅だと論者は思う。持家、オーナー住宅では、積水ハウスなど大手ビルダーに聞くと、新築販売の8割ほどが今や太陽光発電パネルを備えている、という。拙宅でも15年にわたって実証してきたが、エコへの投資は、安い光熱費として経済的な見返りも生むし、ヒートショックを生まない温熱環境を通じた健康維持、独立電源を持つことによる災害へのレジリエンシ―などの、直ちには経済換算しがたい価値を生む。ちなみに、我が家での環境対策追加投資は、30年強でペイバックされるが、そもそも、家庭においてペイバックされるような投資があるのだろうか、と考えると、実は、環境対策が、家庭の他の出費が消費であることに比べ、ミクロ的視点でも経済的であることがよく分かる。

 住宅からのCO2発生は、全国のCO2排出量を5割、8割と削減していく中で、必ず削減していかざるを得ないものであるが、持ち家で普及しつつある環境対策が、住宅ストックの4割程度を占める賃貸住宅にはほとんど行き渡っていない。

 このように認識していたら、たまたまの事情で、賃貸住宅を建築することになった。そこで、論者としては、エコ賃貸というものを構想し、実践してみようと思い立った。賃貸住宅がエコなものへと移行するために、何が障害であり、そこをどう変えるのが重要なのかを身をもって体験し解明する挑戦である。

エコ賃貸の難しさとビジネス拡大の糸口

 このほど、我がエコ賃貸は竣工した。立地は拙エコハウスのすぐそば、山手線ターミナル駅から10分の私鉄駅から歩5分と便利な所にある。その外観は掲載写真のとおりであり、断熱性能は、Q値1.79(実測)であって、東北北部でも十分に暖かさを保てる水準である。太陽光発電は1戸当たり2.8kWであり、京セラの推計では、年間の電力料金支払いを9万円近くも節約できる。ガスや水道までカバーするHEMS(リアルタイムのエネルギーモニター)があって、更なる節約も期待できよう。

拡大

 また、前面は、85平方メートルの透水性の緑被の広い庭となっていて、ヒートアイランド化を防ぐ。エコ性能確保のコー・ベネフィットとして、太陽光で養われ非常時に共用する7kWh 容量のリチウムイオン蓄電池やこれで駆動する井戸ポンプを備えている。 ・・・ログインして読む
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筆者

小林光

小林光(こばやし・ひかる) 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)。工学博士。1949年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業。環境庁(省)では、環境と経済、地球温暖化などの課題を幅広く担当。1997年の京都会議(COP3)の日本誘致のほか、温暖化の国際交渉、環境税の創設などを進めた。環境事務次官(2009~11年)時代には水俣病患者団体との和解に力を注ぐ。自然エネルギーをふんだんに利用したエコハウスを自宅にしていることで有名。趣味は蝶の観察。

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