2014年05月19日
昨今、「電気泳動」という手法に注目が集まっている。
電気泳動とは、DNAやタンパク質などを、大きさなどの性質により、寒天状の物質(ゲルと称する)の中で分離する方法である。大きさで分離することが最も多く、この場合、電気をかけると、DNAやタンパク質はマイナスに荷電しているため(タンパク質の場合はマイナスに荷電させるために特殊な処理をする)、ゲルの中をプラス極に向かって「泳いで」いく。このとき、大きな分子はゲルの中を通りにくいため遅く、小さな分子はゲルの中を通りやすいため速く「泳ぐ」ため、分離できるのだ。分離した後、特殊な試薬で染色し、分離されたそれぞれの分子を可視化する。それが私たちには「バンド」として見えるのだ。
私もかつて、この方法を多用して研究を行っていたから、「電気泳動」という手法が有名になるのはいいことだとは思うが、そのきっかけが「不正」にあったものだから、心境は複雑である。
さて、5月15日の朝日新聞朝刊・科学面に、電気泳動に関する「切り張り 不正の境目は?」という記事が掲載された。ここ数カ月にわたって巷間を騒がせているSTAP細胞論文において成された電気泳動画像の「切り張り(切り貼り)」について、調査委員会の委員が過去に発表した論文における電気泳動画像の「切り貼り」にも言及され、何だか混沌とした状況になっている昨今、こうした記事が出るのは大いに結構なことである。
しかしながら、こうしてできたこの記事を読んでも、それじゃあいったい電気泳動の画像の「切り貼り」は、どのようなものでも不正なのか、それともどこまでならよくて、どこから不正になるのか、についての疑問は、残念ながら払拭されないと思われる。
DNAの分離には「アガロースゲル電気泳動」が、タンパク質の分離には「ポリアクリルアミドゲル電気泳動」がそれぞれ用いられるので、若干手法は異なるが、「切り貼り」についてはどちらも意味するところは同じなので、ここではタンパク質の分離にもちいられる「ポリアクリルアミドゲル電気泳動」について、その歴史的経緯を踏まえ、私見を述べることにしたい。
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