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「日本は中国と似ている」 キング英気候変動問題特別代表インタビュー

石井徹 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

 英国で外相直属の気候変動問題特別代表を務めるデービッド・キング氏が、今月中旬、来日した。昨年10月に就任して以来、日本で20カ国目の訪問になるという。来年末の合意を目指す新しい地球温暖化対策の国際的な枠組みづくりで、キーマンとなっている一人だ。温暖化防止に向けた日本と世界の取り組みや枠組み交渉の見通しについて、意見を聞いた。
デービッド・キング英国気候変動問題特別代表拡大デービッド・キング英国気候変動問題特別代表

 ――英国では「2050年に温室効果ガス80%削減」という目標を決めて、どう達成するかを考えるのに対し、日本ではまず何ができるのかという手段を用意して目標を決めている。正反対のアプローチだ。

 私たちはまず80%削減という目標を設定し、エネルギー収支を決定していく。その際には、研究にフォーカスしていくし、実現するためにあらゆる「てこ」を活用する。FIT制度を求め、規制を通じて目標を達成していく。目標がまず先にあり、あらゆる手段を使って達成しようとするのが我々のやり方だ。

 日本と中国の方法は、英国とは逆で、どう達成するかはっきりするまでは約束に躊躇している。日本においても、中国においても、どうすればその目標が達成できるか、ということがはっきりしない限り、約束しない。その意味で両国は類似している。

 ――日本は2020年に25%削減という目標を掲げていたが、震災後に05年比3.8%減に変更した。2050年については、日本は英国と同じ80%削減という目標を掲げているが、位置づけが弱く、また変更される恐れがあると感じている。

 世界中の人たちは、日本が経験した苦しみに同情を感じているし、日本の状況が非常に難しいことも理解している。一方で、日本に対する批判も理解できる。国際社会は失望した。日本は以前、非常によい約束をしていたからだ。重要なのは2030年に向けた次の約束だ。そのなかで2050年80%削減を再度明らかにすることが重要だと思う。2020年の目標を修正することも可能だと思う。

 ――深刻な被害を避けるために気温上昇を2度以内に抑えるという目標について、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書は「不可能ではないが難しい」といっている。日本では、経済界や学者の一部から「2度は難しいので2.5度でもいいのではないか」という声が出ている。削減コストが安くてすむからだ。英国ではこのような議論はあるのか。

 英国では2.5度ではどうかという議論は一切行われていない。2度目標は国連での約束であり、我々はそれを受け入れているということだ。政府の中でそのような議論は行われていない。IPCC報告書で新しく、最も重要な点は、2度目標の達成のために炭素収支を設定しようというものだ。現在、温室効果ガスは全世界で年間2%ずつ増えている。もし、このペースが続けば、2043年に炭素は出せなくなる。

 この問題を、今後10年間そのままにして続けていくことはできない。もし、パリの気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)でよい合意ができれば、気温上昇を2度以内に収めることができる。よい合意とは何か。2020年以降、排出量を年間3.2%ずつ下げていかなければならない。技術的、経済的には達成可能な数値だ。もし2.5度でもいいんじゃないか、あるいは3度まで、3.5度までいいんじゃないか、という人たちの声に耳を傾けてしまうと、我々はチャンスを失ってしまう。2度目標は我々と将来世代にとって大きな挑戦だ。

 ――原発事故があった日本では、再生可能エネルギーだけで目標を達成すべきだという意見も強い。英国は原子力を温暖化対策の有力なツールとしているが、なぜ選択肢として残しているのか。

 英国がなぜ原子力を使い続け、新しく原発を建てようとしているのか。英国では福島事故後、直ちに公共討論が行われ、私も参加した。公共討論はとても生産的だった。事故前の世論調査では、原発の新設に60%の国民がイエスと答えていた。事故の直後には30%に落ちたが、議論をした結果、8カ月後には賛成が70%になった。議論で出てきたのが、原子力発電所は1キロワットあたりもっとも安全なエネルギー源だという結論だ。福島の原発事故後、炭坑で死亡した人は100人に上る。中国やインドでは石炭を燃やすことによる大気汚染の死亡者が何百万人に上っている。英国政府の結論は「新たな原発を建設するが、その際の規制はより厳しくする」というものだ。

 英国は今後もエネルギーミックスの中に原子力と再生エネルギーの両方を含んでいく。地震が頻発する日本の場合は少し違うが、個人的には日本が原発を持つべきではないとは考えない。それぞれの原発で地震活動のリスクを評価する必要があるということだ。地熱や風力、エネルギーの貯留技術によって、日本が原発を使わずにすむことは可能かもしれないが、目標達成はより困難になるだろう。

 ――日本は新たな石炭火力発電を作ろうとし、高効率だとして石炭火力を輸出しようともしている。米国や欧州とは正反対の動きだが、どう考えるか。

 新たな発電所を作るには投資利益を確保しなければならない。そのためには50年間稼働しなければならないが、実際には不可能で、投資としては好ましくない。火力発電所から出る二酸化炭素(CO₂)を回収して貯留するCCSを使えば、少し長く稼働を続けられるかもしれないが、そのための場所も必要だ。非常に多くのコストがかかるので競争力はないと思う。

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筆者

石井徹

石井徹(いしい・とおる) 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

朝日新聞編集委員。東京都出身。1985年朝日新聞入社、盛岡支局員、社会部員、千葉総局次長、青森総局長などを務めた。97年の地球温暖化防止京都会議(COP3)以降、国内外の環境問題やエネルギー問題を中心に取材・執筆活動を続けている。共著に「地球異変」「地球よ 環境元年宣言」「エコウオーズ」など。

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