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「自分を見るメガネ」はどこが革新的なのか

稲見昌彦 東京大学先端科学技術研究センター教授

 メガネチェーン「JINS(ジンズ)」を運営するジェイアイエヌ(JIN)が5月13日、利用者の頭部運動と眼球運動を計測できるメガネ「JINS MEME」を発表した。このようなIT機器が、家電メーカーでも光学機器メーカーでもなく、メガネメーカーから発売されたことは、筆者周辺の研究者・技術者仲間からも驚きをもって迎えられた。

 JINはオープンイノベーションを志向しており、数名の研究マネジメント担当者が大学や企業と連携し「JINS MEME」を開発した。実は筆者らの研究グループも研究開発の一翼を担っているため、手前味噌となってしまう点があればご容赦頂きたいが、これまでWEBRONZAで論じてきた「ウエアラブル(身につけられる)技術」の今後を展望する上で示唆的な点が多くあるため、研究者として個人的に感じたことを中心に紹介したい。

JINS MEMEをかけた筆者拡大JINS MEMEをかけた筆者

眼電位で眼球運動を測る

 「JINS MEME」のキーテクノロジーの一つである眼電位計測は、Electro-Oculography(EOG)とも呼ばれる古くから知られた技術である。例えば毛利衛さんがスペースシャトルエンデバー搭乗時に眼電位を用いた実験をした。人の眼球は網膜側が負に角膜側が正に帯電した弱い電池のようになっており、眼球周辺に電極を配置することでその電位差から眼球運動を計測することができる。実は脳波計測時もこの眼電位が大きなノイズとなってしまうほど、強い信号が出ている。このため比較的簡単な回路で計測することができ、筆者も学部生時代に友人たちと計測器を自作したことがある。脳を直接計測するブレイン・マシン・インタフェース(BMI)をインタフェースの究極系とみなす向きもあるが、ユーザーの身体は脳信号の高性能な増幅器と捉えると、脳そのものを計測するより眼球運動のような身体を計測した方がユーザーの状況をより簡便に知ることが可能となる。

 眼球運動を計測する方法としては、カメラ画像で虹彩の動きを直接読み取る方法や、角膜の反射像の動きを計測する方法など各種あり、最近はコンパクトなメガネ型アイトラッカーや、わずか$99で購入可能なカメラ型アイトラッカーも市販されている。

 それらの手法に対し、眼電位は時間が経つと計測値がずれるため、視線方向を正確に計測することには向いていない。しかし東洋人に多い目の細い人や、睡眠時のような閉眼時の眼球運動の計測に適している。つまり視線でなく、目の動作を計測することに適した方法であるといえる。

眼電位を計測するための電極は、左右のパッドと中央、そして耳あてのところにある。拡大眼電位を計測するための電極は、左右のパッドと中央、そして耳あてのところにある。

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筆者

稲見昌彦

稲見昌彦(いなみ・まさひこ) 東京大学先端科学技術研究センター教授

1972年東京生まれ。99年東京大学大学院工学系研究科修了博士(工学)。マサチューセッツ工科大学客員科学者、電気通信大学教授、慶応大学教授などを経て現職。強化人間、自在化技術、エンタテインメント工学に興味を持つ。光学迷彩、動体視力増強装置など、空想と科学を繋ぐ技術を多数開発。【2017年9月WEBRONZA退任】

 

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