2014年06月04日
前稿ではポスト3.11の漂流する動向をまとめ、「大飯原発再稼働みとめず」の判決で流れが変わるかも、と書いた。また「美味しんぼ」問題と「吉田調書」にも注意を喚起した。特に「美味しんぼ」問題では、その論評のしにくさにこそこの問題の本質があらわれている、と指摘した。
ロングセラーのコミック「美味しんぼ」で、 福島第一を取材した新聞記者の主人公が、疲労感を訴えた後に鼻血を出すシーンがあり、これがやり玉に挙げられた。
確かに「確立された科学的事実ではない」という意味では「非科学的」だった。福島県相馬郡医師会の実施したアンケート調査でも、52医療機関のうち49機関は鼻血の患者が「増えていない」と回答している(5月30日、毎日;ただし、長期間の低線量被ばくの影響には未解明の部分もある)。
またコミックなのに、前双葉町長や研究者の発言を実名入りで掲載した。このことも問題をややこしくした。そのためにいっそう、「表現」としてよりは「事実」のレベルで批判を浴びることになったからだ。確かに非科学的に健康被害を誇張するのは風評被害をあおり、地元住民への差別や復興の障害につながる。これは一応もっともな意見だ。ただ半面、「現地の汚染を直視せよ」「低線量被ばく健康問題を、丸ごとタブー化していいのか」という異論にも一理ある。
たとえば福島県の調査では、 今年3月までに県内30万人の子供の中で甲状腺がん発症が「確定」されたのは50人、「疑い」を入れると89人に上った(5月18日、県発表)。「10代の甲状腺がんは100万人に1~9人程度」(国立がん研究センター)というのがベースラインだから、控えめに見てもその20〜30倍。統計学的に「偶然とはまず絶対に考えられない」水準にある。また前回のデータと比べても、確実に急増しているという。
それにこれは、あくまでも事故後3年間のデータに過ぎない。鼻血を含む症状が報告されているチェルノブイリ原発事故(1986年)では、事故から4~5年後に子供の甲状腺がん発症が増加している。そのことを考えれば、要注意はまだまだこれからということになる。
以上のように、この問題が困難なのは、地元住民の不安をどう受け止め表現するかという表現上の問題(=心理リアリティー)と、実質的な健康被害の事実問題(実態リアリティー)とが混在しているからだ。そして後者の事実問題にすら、未確定な曖昧(あいまい)さがある。
ここで注目したいのは、競うように声高に批判の声を上げたのが「誰だったか」、という点だ。
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