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 集団的自衛権を認めるという、憲法解釈変更がほんの数ヶ月で具体化しつつある。しかし、憲法にもかかわる重大な政策変更にもかかわらず、日本がどこかの国に仮想敵認定された場合の具体的デメリットの議論など、世論の盛り上がりにいまひとつ欠く。特に、国際関係の当事者である海外在住者や、国境を超えた活動をしている者の意見がほとんど表に出ていないのは、いくら世論が日本に住んでいる日本人で形成されているためとはいえ異常だ。

 本稿では、日本と非同盟の先進国に在住する科学者として、個人的に危惧することをかいつまんで書きたい。

地球科学者の国際親善への役割

 科学に国境はない。

 医療などビジネスに直結する分野や、原子力など兵器に直結する分野では、競争とは国際競争を意味する。素粒子や宇宙開発などの超大型プロジェクトでは、国際協力が盛んだ。例えば国際宇宙ステーションでは、米露関係がぎくしゃくした近年でもロシアのソユーズが宇宙飛行士の運搬に使われている。

 とりわけ、地球を丸ごと診断しなければならない地球科学では、昔から敵国どうしですら国際協力してきた。古くは冷戦時代の1957〜1959年に、科学の他の分野に先駆けて、国際地球観測年(IGY)が東西両陣営の協力のもとに実施されている。観測網が全世界に張り巡らされ、それを処理するコンピューター技術が発達した現代では、地球科学のほとんどの分野で、国際協力が当たり前となっている。例えば、PM2.5に代表される大気汚染問題や、放射能汚染問題(チェルノブイリ放射能汚染地域のウクライナ、ベラルーシ、ロシア3国だけでなく、今は日本にも共通の問題である)、津波予報などに同盟国も敵国もない。そして、国際協力を通して相互依存の重要さが明らかになるにつれ仮想敵国が敵国でなくなっていく。

在外邦人の国際親善への役割

 一方、海外在住邦人は、海外に長期間住んでいるというだけで、別に国際協力を目的とするボランティアでなくとも、国際親善の役を担っている。というのも在外邦人の行動は、常に「日本人はこうだ」という評判や偏見と抱き合わせだからだ。

 いかに現代がインターネットやテレビなどで日本の情報にあふれている時代とはいえ、身近に日本人がいれば、その日本人から日本人全体の印象を得てしまうのが普通の人間だ。海外で永住権を持つなどという、とても典型的日本人とは言い難い者ですら「あれが日本人というものなのか」という評価を受けるのである。

 一方、同邦人のいない(少ない)場所に住むに当たっては、周りの住民からの評判は、そのまま生活環境の向上に直結するから、大抵の日本人が評判を落とさないように注意する。そればかりか、圧倒的少数民族だという自覚があるから、日本にいる時以上に文化的軋轢に気をつけることになる。そして、それは結果的に日本人への評価向上につながる。

 更に、多くの在外日本人が、機会あるごとに日本の文化を紹介したり、仕事を通じて日本との国際協力の橋渡しをしたりしている。もちろん、これが全ての在外邦人に当てはまるとは思えないが、少なくとも私の29年の海外生活で知り合った在外邦人は皆そうだった。こうして、海外に住む日本人の多くが日本のイメージ向上に貢献して来た。

滞在国が米国の敵国となってしまう危険

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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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