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高校にも卒業研究の導入を:スウェーデンからの提言

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 欧州では多くの国で学年末を6月に迎える。私の住むスウェーデンの場合だと6月前半に学校が終わり、あちこちで卒業式のパレードなどが見られる。その中でも特に盛大なのが高校の卒業イベントだ。現代では仕事に就くのは高卒が基準であり(スウェーデンでは進学する前に学資を貯め、かつ人生経験を積んで適性の学部や専門学校を見定める若者が非常に多い)、年齢的にも選挙権など成人を意味するからだ。ここでイベントと書いたのは、式典とかお祭りとかいう意味だけではない。下記に詳述するように、大人への門出に相応しい課題・試練の達成という意味も含む。

 これに引き換え、日本では受験地獄のために、高校卒業が形だけの卒業式というマイナーなイベントと化している。高校の本来に意義に立ち返れば、これは大きな損失であり、受験による教育の歪みとすら思える。そこで、日本でも何らかの形で導入が可能なイベントを紹介し、今後の議論の叩き台として供したい。

 私が特に興味をもったのは、生徒の本分である学業に関するイベントだ。欧州の他の国の事情は知らないが、スウェーデンの場合、どの職業科であれ、1年がかりの卒業プロジェクトがあって、最終レポートを出す仕組みになっている。例えばホテル・レストラン科(そういう科が存在する)だと、グループでオリジナルな工夫を凝らした晩餐会を自力で企画・実行し、その報告まで書く。音楽科であれば、一般向けの無料コンサートを自力で手配して実行する。進学前提の人間だと、個人や2〜3人チームで「研究」レポートを書く。

 正式な必須科目なので、平日の平時に特別な時間が高校3年次の1年間に割り当てられている。通常は毎週2時間近く(年間50時間程度)が当てられるが、人によっては200時間近くかける者もいる。内容にしても費やす時間にしても、大学の卒業研究と中学の夏休みの自由研究の中間に位置すると言えよう。あるいは文化祭でのクラブ展示やクラス展示のようなことを、最小単位のチームで最終レポート付きで行うといったほうが分かりやすいかも知れない。

 この卒業プロジェクトのテーマは、

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