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認知症を受け入れる~国家戦略づくりが始まった

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 「認知症医療の充実を推進する議員の会」を自民党の国会議員が6月に作った。会長になった尾辻秀久参院議員は「国家戦略の策定を目指すべくやっていきたい」と話す。すでに先進各国では包括的な認知症国家戦略を打ち出している。いよいよ日本も一歩を踏み出しそうである。

 ただ、この議員の会、「認知症医療の充実を推進する」というのが引っかかる。現在の日本の「認知症医療」には多くの問題があり、今の医療をそのまま推進されてはとんでもないことになる。医療と福祉にまたがる、国民の重大関心事が認知症だ。「議員の会」は、今の医療の悪弊を根こそぎ絶つ気構えを持ってほしい。いや、安倍首相こそ先頭に立って改革を断行しないといけない。

 日本老年精神医学会は6月、認知症に抗精神病薬を続けて使うと半年後には死亡率が高まるという調査結果を報告した。使い始めから10週間後と半年後で、抗精神病薬を使っている人と使っていない人を比較した結果、10週間後は差がなかったが、半年後は使っている方が約2倍になったというのだ。

 抗精神病薬は統合失調症などに使われるもので、暴力などの症状を抑える一定の効果を持つ。認知症では公的医療保険が認められていないにもかかわらず、日本の医療現場では医師の判断で広く使われてきた。しかし、認知症に抗精神病薬を使うと死亡のリスクが高まることは世界各地で報告されている。米食品医薬品局(FDA)はすでに2005年に警告を発した。それが日本ではようやく今年、学会報告が出たのである。この問題一つをとっても、日本の認知症治療の「周回遅れ」ぶりがわかる。

1000人当たりの精神病床数の国際比較(厚労省の資料から)

 「周回遅れ」が突出しているのが、精神病院への入院の多さだ。そもそも先進各国は軒並み精神病院のベッド数を減らしてきているのに、日本だけが高止まりをしている。OECD諸国は人口1000人あたり1床以下がほとんど。だが、日本は2.8床もある。ざっと3倍だ。「医学的必要性」はないのに、地域で生活する基盤がないといった「社会的必要性」があるため入院を続ける人が多いからだ。その中には認知症の人もいるだろう。認知症で入院している人は2008年の数字で7万5000人、その約7割は精神病院に入っている。

 2013年3月に東京都医学総合研究所がまとめた国際比較報告書を見ると、日本の問題点がよくわかる。これは、

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