2014年07月03日
問題の多い日本の認知症医療に対し、「このままではいけない」と訴える専門医も実は少なくない。その1人、日本医科大学講師の上田諭さんがユニークな本を著した。『治さなくてよい認知症』(日本評論社)。薬で認知症は治らない。その現実を皆が受け入れ、病を持ちつつも張り合いをもって生活できるように周囲が力を合わせることこそが「認知症治療」だと主張する本である。高齢者専門の精神科医として約500人の認知症の人を診てきて、認知症を「治すべきもの」「困ったもの」と見る社会の視線が本人を苦しめていると世間に訴えたくなったのだ。
この訴えは、図らずも前稿で紹介した先進各国の認知症国家戦略の基本理念に一致する。だが、それが日本の精神医学界の共通認識になっていないところに私たちの不幸がある。
現在の一般的な認知症治療で専門医の果たす役割といえば、家族の話を聞いて薬を出して終わり、である。家族が困っている当面の症状を抑えることが最優先され、本人の話を真剣に聞くことさえほとんどしない。
国際共通戦略の一つ「パーソン・センタード・ケア(本人の意志を尊重したケア)」は、ケア現場で注目されこそすれ、医療現場では重視されていない。医師でもケアが大事だと主張する人はいる。だが、ケアは医師の仕事ではないと思っているのが普通で、「生活なんて医療とは関係ない」と公言する認知症専門医もいる。そう上田さんは語った。
その専門医の意識を変えたいと上田さんは本を書いた。「反発されるのも覚悟のうえ。とにかく議論を起こしたいと思った」。つまり、草の根からの認知症医療改革のキーワードが「治さなくてよい」なのである。
上田さんの経歴はユニークだ。
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