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やっぱり関与、武田薬品 さらに揺らぐ臨床研究

浅井文和 医学文筆家

 やっぱりノバルティスだけの問題ではなかった。

拡大会見で頭を下げる武田薬品工業の長谷川閑史氏(中央)ら=2014年6月20日、東京都千代田区、山口明夏撮影

 国内製薬最大手の武田薬品工業は6月20日、京都大学などが実施した高血圧治療薬の臨床研究に対して、組織的な関与をしていたと発表した。自社の高血圧治療薬ブロプレス(一般名カンデサルタン)の販売に有利な結果が出るように大学側に働きかけていた。

 3月の記者会見では当時の長谷川閑史社長(6月27日に会長就任)は社員の関与を否定していた。今回の記者会見では「医師主導臨床研究の公正性に疑念を生じさせかねない関与や働きかけを行った点について深くおわびする」と謝罪した。

 昨年来、世界トップの製薬企業、ノバルティスの高血圧治療薬ディオバン(一般名バルサルタン)をめぐる京都府立医科大学や東京慈恵会医科大学などの臨床研究で研究データの不正な操作が判明し、論文が撤回された。東京地検特捜部が同社元社員を薬事法違反(虚偽記述・広告)の疑いで逮捕し、刑事責任の追及にまで進展している。

 ディオバン問題が表面化した当初、製薬関係者から「ノバルティスの特殊事情だ」「他の製薬企業もノバルティスと一緒に見られては困る」という声を耳にした。

 ところが今回明らかになったのは、ノバルティスだけではなく武田薬品も自社製品の医師主導臨床研究に深く関与していたことだ。さらに、6月24日、白血病治療薬の臨床研究をめぐって東京大学が発表した調査報告では、ノバルティス以外にもブリストル・マイヤーズ社員の関与が判明している。

 「医師主導臨床研究」とはいうものの、実態としては企業が関与することが製薬業界全体に広がっていたと考えるしかない。

一貫して製薬企業が関与

 問題になったブロプレスの臨床研究は「CASE―J」と呼ばれる。

 京都大学を中心にした医師主導型の大規模臨床試験だった。2001~05年に高血圧患者約4700人を対象に調査を実施。(1)ブロプレスを使う患者と、(2)他社が販売していていた高血圧治療薬を使う患者の2グループに分け、脳卒中、心筋梗塞(こうそく)、心不全などの病気の発症を防ぐ効果はどちらの薬が優れているのか追跡して調べた。

 武田薬品が第三者機関に依頼してまとめられた調査報告書は、臨床研究の企画段階から学会発表まで同社の一貫して関与があったと結論づけた。

 最初に研究計画書を作る段階では、作成委員会に武田薬品社員がオブザーバーとして参加。武田薬品の計画のひな型を京大側に提供していた。

 臨床研究に参加する医師を募る段階では、医師の候補者名を武田薬品の各支店がリストアップして京大側に提示していた。参加医師への説明会の会場手配も武田薬品の担当者がしていた。

 倫理的に深刻な問題なのは、武田薬品の社員が患者カルテに接していたことだ。ある研究参加施設では、患者のカルテ約2000人分を社員がチェックしてCASE-Jの条件に合う患者を選んだ。社員が医師に対してこれらの患者から同意を得るように頼んでいた。社員が患者データが記載された調査票を医師に代わってパソコンに代行入力することもあった。

 さらに、研究途中で脳卒中などの発症ではブロプレスに有利な結果が出ないことが予想されたため、糖尿病新規発症などについて追加して解析をするように京大側に働きかけた。結果的に、糖尿病新規発症ではブロプレスに有利な結果が出た。学会発表用のスライド原稿も、研究者が武田薬品社員に作成を依頼していた。

 報告書は、この臨床研究に資金も人も提供していた武田薬品を「実質的なスポンサー」と位置づけた。研究者側が「武田薬品の意向を忖度(そんたく)することが当然の前提となると考えていたことがうかがわれる」と認めた。本来は医師が自主的、主体的に取り組むべき「医師主導臨床研究」が、実態としては「企業主導」であったことになる。

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 ただ、調査報告書では十分に解明されていない点がある。 ・・・ログインして読む
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筆者

浅井文和

浅井文和(あさい・ふみかず) 医学文筆家

元朝日新聞編集委員。1983年に朝日新聞入社。1990年から科学記者として医学、医療、バイオテクノロジー、医薬品・医療機器開発、科学技術政策などを担当。2017年1月退社。連載記事「患者を生きる」「がん新時代」「認知症とわたしたち」などに参画。

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