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ウナギはクジラとは違うという話

尾関章 科学ジャーナリスト

 土用の丑の日を、ことし私たちはいつになく複雑な心境で迎えることになった。鰻を食べることに一抹の罪悪感を覚える人が少なからずいるだろう。その一方で、今のうちに食べておきたいと心ひそかに思う人もいるのではないか。ニホンウナギを国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種に指定したというニュースは、真夏の風物詩にほの暗い影を落としたのである。

 今回の決定は、絶滅のおそれがある生物種を網羅するレッドリストの最新版に盛り込まれた。ニホンウナギは「絶滅危惧」のなかでも中程度の「近い将来、野生での絶滅の危険性が高い」に格付けされている。親ウナギの漁獲が四半世紀で1桁落ち、稚魚は半世紀で2桁も激減したとなれば、この判定は妥当なものとみなくてはなるまい。

 日本の食文化が海外から冷たい視線を浴びたという点では、国際司法裁判所(ICJ)が3月に日本の南極海調査捕鯨の中止を求めた判決に似ている。ただ反捕鯨論の背景には、動物の権利保護論や、人間本位の生物観を否定するディープエコロジーの思想があるとみるべきで、鯨食を擁護する人たちはそこのところで争う余地があるように私は思う(当欄2014年4月16日付「クジラ問題、なぜ『思想』で闘わぬ」)。ところが、今回のウナギでは、IUCNが野生ウナギの現況を純然たる科学の目で分析している。思想中立的な考察だ。私たちも冷静に自らの食文化を省みる必要がある。

 ウナギ消費の膨張ぶりは、私のような60歳超世代にとっては自分史と重ね合わせて実感できるものだ。1960年代初めの少年時代、鰻好きの私は誕生日に近所の鰻屋からうな重をとってもらうのが年に1度の楽しみだった。親に連れられて繁華街に買い物に出たとき、百貨店のレストラン街にある鰻屋で食べた蒲焼きも忘れられない。それが今では、スーパーで鰻を買ったり、鰻屋でテイクアウトしたりして、すっかり日常食のメニューになった。

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