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専門家に聞く

 筆者のかつての共同研究者で、神経精神薬理学を専門とする廣中直行氏(LSIメディエンス)に、感想を聞いた。廣中氏はラットやマウスなど動物モデルを使った薬物中毒の研究で知られている。ちなみにLSIメディエンス社は、 国際オリンピック委員会(IOC)の勧告に基づいて設立された「世界アンチドーピング機関(WADA)」が公認した、日本で唯一の委託検査機関だそうだ。

Q1(筆者):脱法ハーブが(特に若い世代に)もてはやされるのは、なぜでしょう?

A1(廣中氏):脱法ハーブ(脱法ドラッグ)の多くは「否定形」で選ばれ、使われます。つまりそれは覚醒剤「ではない」、ヘロイン「ではない」、シンナー「ではない」。マリフアナ「ではない」…つまり脱法ドラッグがどんなものか、本当のところは誰も知らない。そのイメージが、それほど危険「ではなく」、古典的な違法薬物 「ではない」体験をさせてくれるだろうという期待感につながっているのではないでしょうか。

Q2:しかし実際には、多くのユーザーが多数の薬物を使用しているのでは?

拡大保釈が認められ、警視庁東京湾岸署を出て、頭を下げるASKA被告=7月3日午後4時53分、東京都江東区、山本裕之撮影

A2:確かに多くのユーザーが「マルチドラッグ」ユーザーになります。ASKAもそのようです。単一の薬物には満足しない。彼らが本当に求めているのはドラッグの薬理効果ではないのかも知れません。多くの場合、ドラッグはセックスと結びついています。「本当は何が欲しかったのか?」を追究しない限り、もぐらたたきのように「代用品」が出てくる現実に太刀打ちできないでしょう。

Q3:欧米諸国では「ドラッグを法で完全に追放することは不可能」という前提に立って、様々な施策を試みています。たとえばオランダはマリフアナなど「ソフト・ドラッグ」を合法化し、コカインなどの違法ハード・ドラッグと切り分ける施策を40年近く維持して来ました。また(米国の多数の州を含め)多くの先進国では、個人使用目的の大麻少量所持は、事実上黙認されています。大麻の所持や栽培について、少量所持であっても最低刑を懲役刑と定めているのは、G8 各国中で日本だけだそうです。半面で、先の池袋の事件のような害も相次いでいる。日本の規制政策をどう見ますか?

A3:日本の「規制派」は、厳罰を旨とする父性主義(=パターナリズム)と、保護を前面に打ち出す母性主義(マターナリズム)を奇妙に融合させています。乱用者は取り締まり、厳しく罰する(=父性)。一方で、規制によってあなたがたが悪いものに近づかないよう守り、保護する(=母性)と言う。日本のドラッグ使用者はダブルバインドの状態に置かれています。アジア諸国は売人(ワル)と使用者(=売人のカモ)をはっきり分け、前者には死刑を含む厳罰、後者には医療を与えます。父の顔と母の顔を使い分けているようです。しかし日本では一人の人に両方の声が届いてしまいます。

Q4:今後、どのような方向へ進むのが望ましいのでしょう?

A4:今述べたジレンマ、また、規制と乱用のイタチごっこからの脱却を図るには、若い人々が「ドラッグなんか使わなくても楽しい」と思えるような社会を作ること、そして、「清く正しい道」をどんどん狭くして行くのではなく、少しぐらい道を踏み外しても、人は必ずやり直せるというポジティブな信念に基づいたサポートの仕組みを作ることが大切だと思います。

今後はどうなるか:アナログ規制と骨格規制

 さて、今後日本はどうすべきかを筆者も考えてみたい。

 規制する側も知恵を絞ってきてはいる。たとえば

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

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