メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

新しい生き方のススメ~「寄らば大樹」の終焉

まつもと ゆきひろ ソフトウェア技術者、Ruby設計者

大企業に所属するというのは高度成長期には「勝ち組」の証明だったわけですが、現代ではそれほどでもなくなってきています。さらに悪いことにテクノロジーの発達が就職活動のエントリーシート登録を圧倒的に低コストにしてしまったため、多くの企業に適正に審査できる人数をはるかに越える応募数が簡単に集まり、その結果、大多数の応募者が数値で表現できる成績だけでスクリーニングされてしまい、個性や能力をアピールするチャンスすら与えられないという不幸が発生しています。技術の進歩が不幸を招いた例ですね。「就活」に失敗して傷つき、その結果引きこもったり、あるいは自らの命を絶ったりする人々が多数発生する状態は、すでに社会の歪みと言ってもよいでしょう。

 このような不幸は、わたしたちが古い価値観にしがみついていることによって発生しています。もちろん、古い価値観は今後すぐに社会からなくなることはないでしょう。しかし、インターネット時代にはこの価値観がかなり「思い込み」であることを、そろそろ自覚した方が良さそうに思えます。個人を大切にしない組織の論理によって不幸になるよりは、インターネットやコンピューターを活用して、個人や小さな組織にあって影響力を発揮して、より人間らしい生活を選択することが可能になってきています。もちろんかつて常識であった価値観から離れるのは不安ですし、大企業ほどの安定感を手に入れることはできないかもしれません。それでも、テクノロジーの進歩によって、世の中がかつての価値観とは真逆の方向に進んでいることは頭の片隅においておく必要があるでしょう。かつての安心感は、けっして変化していく未来での安定を保証しないのです。

 私の知っている範囲でも、

・・・ログインして読む
(残り:約1665文字/本文:約2386文字)