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ヒトiPS細胞は安全性に問題あり?

佐藤匠徳 生命科学者、ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括

 再生医療とは、だめになった組織や臓器を再生させる種々の医療行為のことを包括的に指す。そのひとつが、さまざまな細胞に分化可能な幹細胞(多能性幹細胞)を培養容器の中で(つまり体外で)増やし、目的の組織や臓器を構成する細胞へと分化させ、できたものを移植する方法だ。この方法を効率的に、しかも安全に成功させるためには、効率良く分化して安全性の高い多能性幹細胞が必要不可欠である。

 多能性があるかどうかは比較的容易に判断できるが、安全性については見極めが難しい。多能性幹細胞には、山中伸弥さんが開発したiPS細胞のほか、胚性幹(ES)細胞があり、さらにこれは作り方によってNTES細胞とIVFES細胞の2種類に分かれる。今月初旬、ネイチャー誌に安全性を見るためにiPS細胞とNT ES細胞を「直接対決」させたという報告が出た(“Abnormalities in human pluripotent cells due to reprogramming mechanisms”, Nature 511, 177–183, 2014 doi:10.1038/nature13551)。安全性に関わるひとつの指標である遺伝子情報の正常性という点でみると、NT ES細胞がiPS細胞を上回っていたという結果だった。iPS細胞は、異常な遺伝子情報を多くもっていたのである。今回の論考では、この研究報告を紹介するとともに、今後の課題などについて筆者の意見をまとめる。

 山中伸弥さんが2006年にマウスで、翌2007年にヒトの細胞で作成に成功したiPS細胞(人工多能性幹細胞)は、皮膚などの体細胞へ「山中4因子」とよばれる4つの遺伝子を導入してつくる。こうすることで、体細胞を未分化で多能性をもった幹細胞へと変化させる(これを初期化とよぶ)のである(上段)。

 NT ES細胞とは、体細胞から核を取り出し、それを卵子の核と取り替える(この操作を体細胞核移植:Somatic Cell Nuclear Transfer (SCNT)とよぶ)ことにより作成される(中段)。この操作で、体細胞由来の核は、卵子が胚へ成長する過程で、未分化の状態へもどる(初期化)。そして、この胚から、初期化された核をもった胚性(つまり胚由来)幹細胞(ES細胞)が調整される。このような方法で作成された胚性幹細胞をNT(Nuclear Transfer: 核移植) ES細胞とよぶ。

 一方、IVF ES細胞は、卵子と精子を試験管内で人工授精(In Vitro Fertilization: IVF)させ、その受精卵から育った胚からES細胞を調整することで作成される(下段)。

 これら3種類のうち、もっとも安全な細胞は、

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