2014年07月23日
早稲田大学が発表した、「大学院先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会」による報告書を読み、学問の根幹に関わる問題があるので看過できないと思った。
そのことについて書く前に、STAP細胞論文をめぐるこれまでの騒動についてもコメントしておこう。今年の春に捏造疑惑が起きたときには、「こうした問題は米国の大学や研究所でも起きそうなことだ」という感想を持った。私の所属するカリフォルニア工科大学で人事委員長をしていたときに何度も経験したことであるが、才能と冒険心のありそうな学生を学部や大学院の頃から目をつけておいて、斬新な研究成果をあげれば他の大学に取られる前に破格の条件で採用し、大学院を出たばかりであっても最新施設の実験室や潤沢な研究費を与えて自由に研究させるというのはよくあることだ。若手にチャンスを与えるというのはリスクも伴うが、これが米国の科学研究に活力を与えている。
最先端の研究を行う大学や研究所の重要な使命のひとつは、既存の考え方を根本から変えるようなブレークスルーを達成することなので、リスクのない人事などありえない。問題は、人事に失敗したときにどう対処するかである。この点において、今回の理研の対応には問題があったと思う。たとえば、現在行われている再現実験には、日本分子生物学会の大隅典子理事長の声明にもあるように、科学的価値が乏しい。
先ほども書いたように、このような事件は米国で起きても不思議ではない。たとえば、2000年から2002年にかけてベル研究所のヘンドリック・シェーンが起こした捏造事件は、今回のものより規模が大きい。だから、むしろ今回の騒動によって日本の大学や研究所が「出る杭は打たれる」という間違った教訓を学んで、リスクのある人事を避けるようになるのが心配だ。
これに対し、今回の早稲田大学の調査委員会の報告書は、私には理解できない。大学の内部だけに通じる論理で書かれており、博士号に対する世界基準を逸脱したものだからだ。
まず、
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