大隅典子×最相葉月×高橋真理子
2014年08月22日
最相 出版界では、ここ10年間ぐらいオン・ザ・ジョブ・トレーニングが非常にやりにくくなっています。経営が悪化して定期採用が少なくなって、自分の上にいるのがもう何年も上の先輩。普通だったら2歳ぐらい上の先輩に連れられて取材に行ったり、インタビューしたりするものを、先輩のほうも忙しすぎて後輩の教育に手が回らない。いつまでたってもどういうふうに取材したらいいか分からないし、どういうふうに依頼状を書けばいいか分からないし、どういうふうに原稿を書けばいいか分からないという、そういう編集者が今すごく増えているんですよね。
サイエンスの世界でも以前はオン・ザ・ジョブ・トレーニングがやられていたと思うんです。ところが先ほどおっしゃった大学院の重点化や、1996年以降のポスドク1万人支援計画で、研究室には期限付きのポスドクがいっぱい採用されて、それぞれが実験を細かく分担してデータを出していくようになった。教授は教授で研究費を取ってくるのに忙しいとか、海外に行かなきゃいけないとかで、全体を見る余裕もない。
2006年の大阪大学の論文捏造事件では、元教授は、みんなに論文を書けと言っているんだけど、誰も書こうとしない、だから自分がデータをまとめて論文を書いたんだと証言しています。論文を書くようにするのが指導教官の役割だと思うのですが。ただこの研究室は例外ではなくて、忙しさのあまり物理的に教育に力を傾けられないという状況が現場で起こっているんじゃないかなと思うんです。
大隅 論文をちゃんと書けない学生さんというのは、先ほど言ったような大学院重点化の問題がありますので、もしかすると割合としては増えている可能性はあると思います。理系の学生の中には国語とか英語とかを軽視して進学してしまう人もいるので。
高橋 忙しくなり過ぎているというのは最相さんおっしゃる通りで、新聞社も忙しくなり過ぎている。1つはテクノロジーがあまりに発達して、仕事が本当に増えているんです。私は昔、新聞記事だけ書いていればよかったんですけれども、今はWEBRONZAも書かなきゃいけない。これはウェブの技術ができたから生まれた媒体ですよね。そうしたら新聞の仕事が減るかというと、減らないんですよ。新聞はいつものように皆さんのご家庭にお届けしております。科学者も似たような状況ですよね。技術の発展にどう文句を付けたらいいのかよく分からないんですけれども。
大隅 関連してテクノロジーの進歩があまりにも早いので、年上の先生が新しいテクニックについていけてないところも問題としてあります。それが、チェックが甘くなる背景になっている。
最相 『ニュースの天才』という映画は
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