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[5]STAP騒動とは何なのか 科学と社会を近づけた事件

大隅典子×最相葉月×高橋真理子

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

7月14日のWEBRONZAトークイベント採録の最終回をお届けする。

高橋 小保方さんを参加させた検証実験をやるということになって、大隅さんは日本分子生物学会理事長として声明を出されました。

大隅 STAP再現実験を本人を交えてするという報道が出ましたので、「研究不正の実態解明が済むまでSTAP 細胞再現実験の凍結」を求めました。一般の方からは「国民はむしろ小保方氏に早く実験に参加してほしいと考えている」といったコメントが来ました。

 科学者から見たら、本人に実験をやらせるのはナンセンスで、それに税金を使ってやるのはいかがなものかと思う。実験をやるために処分を先送りしていることも、じゃあ、うそでもいいから論文を出しちゃえばいいのということになりかねないので、これはぜひやめてほしいというのが分子生物学会の立場です。

最相 たとえ小保方さんが再現できたとしても、科学界ではまったく評価されないということだと思うんです。ただ我々一般人が、いろいろな経緯があってここまで来たものだから、もう一度チャンスをあげようじゃないかという情緒的な反応になるのはとてもよく分かる。文部科学大臣までが「小保方さんに再現してもらわなきゃ」と発言しましたね。それは科学者から見たらすごく異常な状況ですけれど。

 科学コミュニティーに対してはSTAPとかiPS以前の基礎研究をしっかりやってほしいと思います。なぜ成熟細胞が初期化するのか、細胞の中でいったい何が起きているのか、DNAは複製を繰り返すごとに変異が入って、その変異の蓄積によってがんのような病気になるわけですけれども、成熟細胞を初期化したからといって変異までリセットされるのかどうかというのは、まったく分かっていません。DNAのメチル化やヒストン修飾などのエピゲノム変異もそうです。

 最終的には体の中に入っていくものなのですから、そういう基礎の基礎の部分をもっと研究していただきたいし、研究費ももっと分配されるべきだと思います。

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大隅 大変大事なご指摘なんですけれども、別の意味での問題もあると思うんです。つまり、いつまでも臨床応用にいかないまま研究費を無駄に使ったり、あるいは実用化されそうにない特許を維持したり申請したりするのにも国費が投じられてしまったり、ベンチャーが日本では育たないからとベンチャー育成用の予算が下りたりとか、そういう現実がある。それはそれで問題で、

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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)、編集委員を経て科学コーディネーターに。2021年9月に退社。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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