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問われる研究者の矜恃、政治との緊張関係をもて 米本昌平 × 尾関章トークセッション(4)

まとめ:尾関章

米本昌平、尾関章

 会場 二つ質問があります。さきほど実験ノートとか、その管理を誰がやるかとかという話で、結局やはり研究コミュニティーだとか学会だとか学術会議だとかそういうところで、研究コミュニティーの中でやっていくべきだという話があったと思うんですけれども、今のお話で非常に科学者への負担が増えているというなかで……

 米本 そうです。

 会場 さらにそのウォッチするというのは難しいかなと思っています。一方で、政治介入というのは確かによくないと思うので、何かそうでない機関みたいなのが必要なのかなと考えたりもしているんですけれども、具体的にどういうウォッチの仕方を?

 米本 ちょっとお言葉を返すようなんですけれども、それから私の意図が正確に伝わらなかったんですが、実験ノートを管理するのは世界中、ユニットリーダーです。ですからはっきり言って、小保方さんはまったく研究者としての訓練ができていないまま、研究室主宰者(PI)として採用されてしまった。あの改革提言は、小保方さんを、STAP細胞をともかくやらせるために特例で採ってしまって、しかも秘密プロジェクトでやってきたと批判しているわけで、僕は、そこは完全に正しいと思います。

 むしろ研究ノートの付け方というのは、もうこれは作法というか基本的な訓練の話ですので大学院レベルで。

 行くところがないから大学院へ行くのではなくて、大学院生は研究者の予備軍として、厳しい研究データの取り方と管理の仕方と、加工したらどんなひどいことになるかということについて、そういう価値観を(身につけさせることを)大学はやっていなかったのがばれちゃったんだと思うんですよ。そういう意味では、今はどんどん変わっていますので、やればいいです。

 何か新しい組織というのは、もうつくらない方がいい。むしろ、要するに今ある組織を将来有用なかたちで使えるように、ソフトというか、制度ではなくて使い方のモードチェンジをすべきであって、科学者が社会のなかでの地位と行動原理というのを確認すべきです。それは余計なことではなくて、もっと極めて単純な、真理追究のために命を懸けるということ、それ以外は普通の自分であるということ、そういう価値観を若手からたたき込んで、研究者そのものが実現すべきだと思うんです。

 僕は、今の日本のアカデミーは本当にひどいと思うので、もう年をとってあとは言いたいことしか言わないことにしている。政治家に言わせるのではなくて、普通の人が学会傍聴ツアーというのをやって、いかにくだらないシンポジウムをやって、アリバイ研究をやってアリバイシンポジウムをやって、国から金をもらっているかということについておもしろがって、「学会は入れない」と言われたらそれこそ断固ばんばん書いて――そういう目にさらさせるのが一番いいと思うんです。

 ちょっと話は飛びますが、僕は司法制度改革にもう7~8年、10年ぐらい巻き込まれていますけれども、裁判員制度というのが始まって、いかにその司法がよくなったか。本当に検察はよくなった、裁判官は寝なくなった、裁判はわかりよくなった――だからこんなにいい司法制度はないですよ。

 アカデミーをたたき直すためには、学会傍聴ツアーをやるのがコストがかからなくて一番いい。官僚機構もそうなんですけれども、昔はめちゃくちゃひどかったんだけれども、知らない間にだんだんいい方向に変わると、自分たちは昔からもうこういうふうにちゃんと丁寧にやっていましたという顔をするので、それもたたかないで、しかも新しい制度をつくらないで、今ある制度をこのままなるべくコストをかけないで、未来の社会のためにユースフルに変えるためには、もう市民の目にさらされるのが一番いいと思います。

 会場 ありがとうございます。

 尾関 次の方どうぞ。

 会場 今回のSTAPの件では、小保方さんが教育訓練をあまり受けてこなかったという背景があると思うんですけれども……。私は昔、大学院で研究していた経験がありますが、友人などに聞いても実験ノートは比較的ちゃんと管理されているところが多かったりして、あまり何か小保方さんが代表のようには思えなくて、それは実際にどうなのかというところをちょっとおうかがいしたいです。

 米本 ですから、この問題は理研のなかで言うと世代間に価値観の段差があって、上の方の第一線の人たちは自分たちの大学院のころは全然大学院生っていなくて、めちゃくちゃに厳しい訓練を受けてきて、大学院生というのは、てっきりそういうものだとばかり思っていて、それで竹市さんなんかは完全にそういうカルチャーですよね。

 いやしくもドクターを取ってきたなら、それは科学者予備軍でしょうというそれはそういうことなんだけれども、実際には特に大学院拡張の政府の方針で学生を増やさないといけなくなって、それでほっておくとアジアの諸外国の学生ばかりになっちゃうので、少々お行儀の悪いやつもなんとか論文を書かせるという、そういうところが決して少なくない。

 だから、聞けばちゃんとやっていると言うに決まっているんだけれども、僕のよく知っている超一流の国立研究所の主任研究員は、若手が書いてきた論文はコピペだらけでそういうものだと思っていると。自分は、それを直すのが仕事だと思っていますと。だから、きれいごとではなくて、 ・・・ログインして読む
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筆者

米本昌平、尾関章

米本昌平、尾関章 

・米本昌平(よねもと・しょうへい)
総合研究大学院大学教授。東京大学教養学部客員教授。1946年、愛知県生まれ。京都大学理学部卒業後、三菱化成生命科学研究所室長、科学技術文明研究所長などを経て現職。専門は科学史・科学論。臓器移植からDNA技術、気候変動まで幅広く発言。著書に『地球環境問題とは何か』(岩波新書)、『バイオポリテイクス』(中公新書)など。

・尾関章(おぜき・あきら) 科学ジャーナリスト。北海道大学客員教授。77年、朝日新聞社に入り、83年から科学記者。ヨーロッパ総局員、科学医療部長、論説副主幹などを務めて2013年に退職した。関心領域は基礎科学とその周辺。著書に『科学をいまどう語るか――啓蒙から批評へ』(岩波現代全書)、『量子論の宿題は解けるか』(講談社ブルーバックス)、共著に『量子の新時代』(朝日新書)。1週1冊のブログ「本読みby chance」を開設。