メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

ドイツの挑戦 ~ 「脱原発とエネルギー大転換」の現状と課題 (上)

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

はじめに

 サッカーのワールドカップにおけるドイツの優勝で、成熟国家としてのドイツが評価されているが、もう1つ注目すべきは、脱原発とエネルギー大転換を目指すドイツのエネルギー政策である。日本は、原発ゼロの現状であるものの、原発の再稼働が目標となり、ドイツでは、まだ9基が稼働しているが、2022年には脱原発を目指すという対比も重要である。

 しかし脱原発とエネルギー大転換は簡単に達成できるものではない。再生可能エネルギーの普及による卸電力価格が低下しても、電力代金は上昇するというパラドックスがなぜ生ずるのか、再生可能エネルギー利用が増加しているにもかかわらず、原発代替のために石炭火力発電所利用によるCO2は増加するというパラドックスがどうして起きているのか。それを理解するにはドイツのエネルギーシステムの特徴を踏まえたうえで、現状と課題を明確にする必要がある。日本では、経団連がFITの抜本的見直しを要求するに至っているなかで、ドイツの再生可能エネルギーの成果と課題を正確に捉えておくべき段階にある。

拡大ドイツ政府の「第2回モニタリング報告:未来のエネルギー」

 再生可能エネルギー固定価格買取制度(EEG)の賦課金の値上がりによる家計と産業競争力への影響が伝えられるなかで、問題を再生可能エネルギーとEEGのみに焦点を絞るのではなく、ドイツが直面するエネルギー問題の全体、とくにエネルギーの安定供給や省エネなどの関連した問題と課題を正確にとらえて、そこから発生する諸問題を位置づけし、そのなかにEEG問題も検討する必要がある。次のような諸課題があると考えられる。

 第1に、大目標としての脱原発と温室効果ガス削減(気候変動対策)と、そこから派生する第2の再生可能エネルギー拡大とエネルギー効率の向上が位置づけられる。第3に、再生可能エネルギー拡大とコスト問題を検討しなければならない。第4に、2大柱の1つであるエネルギー効率向上・断熱・交通分野が問題となる。第5に、発電容量拡大と安定供給の問題がある。第6に、これと関連した送電網拡大問題、第7に、エネルギー大転換による環境システムへの影響を検討する必要がある。
そこで今年3月に公表されたドイツ連邦政府経済エネルギー省による『第2回モニタリング報告:未来のエネルギー』と同『専門委員会報告』を紹介しながら、ドイツの「脱原発とエネルギー大転換」の現状を明らかにしたい。必要に応じて、連邦ネット庁のモニタリング報告2013も参照する。

1:エネルギー大転換の目標  温室効果ガスを80~90%削減(2050年)

 ドイツは2010年秋に決定した「エネルギー大綱」と福島原発事故後の2011年9月のエネルギー政策によって、2022年までの脱原発と2050年までに温室効果ガスを80-90%削減するという野心的目標を掲げ、「エネルギー大転換」(Energiewende)を実施している。

 そしてエネルギー政策の対話、参加の調整を行うために、モニタリング・プロセスが位置づけられ、多くの統計データから評価を行い、3年毎にモニタリング報告が出される。今回は2012年に関する正式な報告であり、2012年12月にも第1回報告が出されている。このドイツが行っている挑戦の現状を2回にわたって報告する。

 専門家委員会報告が指摘するように脱原発と温室効果ガス削減が「エネルギー大転換」の主目標であり(第1章「エネルギー大転換の要素としてのモニタリング・プロセス」)、9基の稼働原発中6基を抱えるドイツ南部の発電容量を確保することは不可欠であるが、温室効果ガス削減は不十分である。排出量取引以外の追加的手段が必要である。石炭火力発電に頼るのは避けるべきで、省エネは再生可能エネルギーよりも2倍の効果があるという(第2章「脱原発と温室効果ガス削減」)。

 エネルギー大転換とエネルギー政策の3つのトライアングル(重要分野)は、環境保全、経済性、供給安定性である。供給安定性では、ヨーロッパレベルで発電容量メカニズム(待機電力料金を払う)をつくり、近隣諸国のネット利用を検討することが必要である。経済性では、EU市場での石油・ガスの価格上昇なかで、EEG賦課金の増加による低所得層への影響を検討する必要がある。

 環境保全面ではエネルギー供給の中心がまだ在来火力発電と原子力であり、省エネと再生可能エネルギー拡大が重要である(モニタリング報告第2章「エネルギー大転換とエネルギー政策の3つのトライアングル」)。

 エネルギー大転換の目標が2020年の温室効果ガス削減40%に対して(1990年基準)、2012年の実績は24.7%であり、再生可能エネルギー電力比目標35%に対して、2012年の実績は23.65%であり、1次エネルギー比目標18%に対して、2012年の実績は12.4%であった(モニタリング報告第3章「エネルギー大転換のモニタリングの量的目標と指標」表3.1)。

2: 再生可能エネの成果と課題 太陽光発電の買い取り価格は13~19円/kWh

 焦点となっている再生可能エネルギーの現状について、モニタリング報告第6章「再生可能エネルギー」によれば、最終エネルギー消費の約半分を占める熱分野の再生可能エネルギーが、2000年から2012年にかけて4%から10%に増加した。

 他方で、電力代金に上乗せされるEEG賦課金が2013年には5.277セント/kWhとなったのは、卸電力市場が下がり、電力市場と買取価格との差が162億ユーロ(約2兆円)と拡大したためである。EEG2012改定によりコストは制限され、太陽光の買取価格が月ごとに逓減するようになった。数年前は32-43セント/kWhであったが、2014年には9.4-13.5セント/kWh(13~19円、1ユーロ=140円)になり、太陽光の上限が52GW(5200万kW)に制限された。さらに新EEG2014は、2014年8月1日から実施される。

 エネルギー大綱の目標値は相対値(%)であるので、省エネが進めば、一層達成しやすくなる。電力中の再生可能エネルギーの目標割合は、2025年には40-45%、2035年には55-60%である。

 新EEG2014により電力コストは制限される。電力網拡大と対応させて、他の電力とのフレキシブルな対応を目指し、電力安定供給、EUとの統合を図るが、連邦政府はEEGへの補助はしない。現状は陸上風力が増加し、洋上風力は遅れているが、バイオガスは増えている。

 電力多消費産業は再生エネ賦課金が免除 電力量の30%も

 問題となっているEEG賦課金の免除は、特別調整規定が電力多消費産業と鉄道に対してと、自家消費が免除され、グリーン電力は2セント/kWh免除されている。この3つ全体で158.4TWhが免除されており、電力消費のじつに約30%に相当し、その免除分を家庭と他産業が負担している。

 賦課金中の免除の比率は2012年に0.63セント/kWh,2013年に1.04セント/kWhの追加負担となる。産業の国際競争力を考慮して特別調整規定が設けられており、2012年には734企業、2013年には1720企業が申請した。太陽光などの自家消費も賦課金は免除されてきたが、連立政権協議により新規の自家消費分も最少の賦課金支払をする方向である。

 賦課金が上昇しているのは、スポット卸電力価格が低下したためで、賦課金と卸電力価格を合計すると約8セント/kWhとなり、増加はしていない。再生可能エネルギーによる卸電力価格低下というメリット・オーダー効果の特定は難しいものの、2011年データによれば、0.56-1.14セント/kWhの電力価格低下のうち、0.89セント/kWh程度あると推定されている。

 再生可能エネルギーに関する専門家委員会の報告(第4章)によれば、EEGは焦点となっているが、エネルギー大転換では電気のみでなく、熱と交通分野全体が問題となる。EEG賦課金増加の2大要因は、卸電力価格低下と賦課金免除額の拡大のためである。再生可能エネルギーのうち、陸上風力と太陽光のベストミックスが重要である。省エネが10%進めば、2020年における再生可能エネルギー電力比40%という目標は達成可能

・・・ログインして読む
(残り:約492文字/本文:約3884文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

吉田文和の記事

もっと見る