メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

ドイツの挑戦 ~ 「脱原発とエネルギー大転換」の現状と課題 (下)

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

前回(上)に引き続いて、ドイツが進めるエネルギー大転換の現状を報告する。(上の章だては、1:エネルギー大転換の目標、2:再生可能エネの成果と課題)

3 エネルギーコストの問題  化石燃料の輸入は3・6兆円の減(2012年)

 エネルギーコスト問題については、モニタリング報告の第11章「エネルギー価格とエネルギーコスト」、第12章「エネルギー転換のマクロ経済効果」と専門家委員会報告第7章「エネルギー供給のコスト」が検討している。エネルギー価格の上昇は、エネルギー大転換のためだけでなく、国際市場の価格上昇のためである。電気代金の上昇は、賦課金、電力網代金の上昇のみならず、石油、ガス価格の上昇による。

 他方で、石炭輸入価格は低下し、環境税であるCO2価格は4.32ユーロ/トンの低水準を記録した。電力の93%は相対取引であり、卸電力価格の低下により、買取価格との差額を補償する賦課金が拡大し、家庭用電力価格は25.89セント/kWhとなったが、そのうち賦課金を含む公租分が45%を占める(2012年の送電網代金は6.52セント/kWh)。

 電力価格は、イギリスとフランスが安いのに対して、ドイツは歴史的に高い水準であった。ドイツ経済の電力への支出は2012年にはGDP比で2.5%であり、10%上昇した。

拡大ドイツで太陽光発電の買い取り価格が大きく上がったのは2004年。この直後、ドイツ北西部エムデン近くのこの農家は納屋の屋根に30kWの設備をつけ、売電を酪農とならぶ収入の柱にしていた。06年5月撮影

 投資面を見ると、再生可能エネルギーと省エネへの投資は、エネルギー大転換の主軸である。再生可能エネルギー分野に全体で195億ユーロが投資されて、復興金融公庫に断熱への融資額は35億ユーロに達した。化石燃料の輸入は2012年には260億ユーロ減少し、そのうち3分の1は省エネの効果による。雇用効果は2012年で、再生可能エネルギー関係37.78万人、そのうち太陽光19%、風力16%であり、省エネ関係の雇用は43万人である。

4 エネルギー効率向上 交通分野のエネ消費は増加

 第4の課題として、2大柱の1つであるエネルギー効率向上・断熱・交通分野については、モニタリング報告第5章「エネルギー効率」、第9章「建物と交通分野」で扱い、専門家委員会報告第3章「省エネの取組」が評価している。

 エネルギー政策の鍵となる要素のエネルギー効率は、2020年までに1次エネルギー消費を20%低下させ(2008年基準)、2050年までに50%低下させる目標である。このためには、毎年のエネルギー生産性を毎年2.1%増加させる必要がある。エネルギー効率性はエネルギーコストを低下させ、競争力要因となる。そしてエネルギー需要を減らし、安定供給に寄与する。産業分野のエネルギーの3分の2が金属・化学のプロセスの熱利用である。

 政策的手段としては、税制、情報、コンサルタントなどの他、追加的方策も検討する必要がある。建物と交通分野に関わるエネルギー問題について見ると、建物関係では60%が家屋の熱利用であり、商業用は29%、産業用は11%である。家庭用熱消費は10年前よりも25%減少している。炭素中立建物を2050年までに増やす指標を作る。

 なぜ、省エネがなかなか進まないのか?マクロ経済レベルと個人の最終エネルギー消費の両方で、情報も十分ではない。建物と交通分野が重要であり、インフラ整備と排出量取引の改善も必要である。リバウンドも起きている。CHP熱電併給はバイオ系と産業用で増えている。交通分野は29%のエネルギーを消費しているが、交通分野のエネルギー消費は2005年から増え続けている。貨物輸送が70%増加したが、うち鉄道は17%である(専門家委員会報告第5章)。

5 発電容量と安定供給 ドイツ南部の電力供給に不安残る

 第5の課題である、発電容量拡大と安定供給の問題は、モニタリング報告第7章「発電所」によれば、再生可能エネルギーの変動に対応した在来火力によるフレキシブルなシステムが必要である。2012年の発電量は、在来火力と原子力で75%、再生可能エネルギー25%であった。

 発電容量は、在来が102GW、再生可能エネルギーが75GWであり、各州で異なり、在来火力発電はノルトライン州に多く、原発は南部に多い。安定供給は、ガス供給と冬の厳しさに依存している。専門家委員会報告第6章「供給安定性の発展」によれば、全体として発電容量の不足はないが、ドイツ南部に不安が残る。というのは、南部の原発が順次停止し、南部とマイン川流域も発電容量不足の可能性があるのは、冬季がピーク需要になるからである。

 送電網の拡大が不可欠である。ヨーロッパ規模のグリッドの利用も重要である。国内ではもともと1855kmの計画に対して、15%の268kmしかできていない。電力需要のピーク時電力代金を高くするピークチャージは負担を減らす効果があり、電力ネットとガスネットとの結合が進行中である。

 第6の課題である、送電網拡大問題について、モニタリング報告第8章「ネットワーク登録と拡大」が検討している。電力網への投資は、操業への投資を毎年26-40億ユーロ、メンテナンスに31億ユーロを行っている。再生可能エネルギーの自家消費が増加し、賦課金を免除しているが、送電網の負担も免れている。送電網の拡大が計画どおり進まないなかで、電力の荷重負荷が発生している。

仏に11TWhを輸出、仏から2・4TWhを輸入(2012年)

 ドイツの電力輸出入は拡大し、2012年には23TWhを輸出している。2012 年にはドイツからフランスへ11.1TWhが輸出されたのに対して、フランスからドイツへは2.4TWhが輸入された。

・・・ログインして読む
(残り:約642文字/本文:約2944文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

吉田文和の記事

もっと見る