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東大の大量論文不正 解明すべき連鎖の構図

浅井文和 医学文筆家

 不正の実行者が解明されるまでに2年半もの歳月が費された。

 東京大学は8月1日、東大分子細胞生物学研究所(分生研)で加藤茂明元教授が率いた研究室が発表した論文の不正問題で、元助教授ら2人が論文の捏造(ねつぞう)・改ざんを実行したと認定する調査報告を発表した。

 しかし、これは調査報告の「第1次」という。

 昨年末の中間報告では、旧加藤研究室の論文51本について画像の不適切な切り張りなどがあったとしていた。今回はそのうち5本の論文で捏造・改ざんの実行が認定されただけだ。51本の論文の著者数は200人以上に及ぶ。このうち、だれが不正の実行者なのか、全容解明にはさらに時間がかかる。

 STAP細胞論文に関する理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーの研究不正に関して、理研の調査報告では小保方氏個人による論文の捏造(ねつぞう)・改ざんが問題とされた。

 この東大研究不正問題では、捏造・改ざんの実行者が多数に及び、不正が行われた期間も10年以上に及ぶ。組織的な不正が長年実行されていた。

 世界の研究不正の歴史の中でも、これだけ大規模な不正は珍しい。

 いったい、なぜ、この研究室で不正が始まり、どのように不正が常態化したのか。解明することは東大の責務だが、1日の記者会見では具体的にどのように不正が実行されたのかは明らかにならないままだった。

大規模で日常化した捏造・改ざん

 加藤氏は日本を代表する分子生物学者。英科学誌ネイチャーなど著名な雑誌に論文を発表している。東大分生研でも花形の教授だった。

 細胞内のDNAに刻まれた遺伝情報のうち、必要な情報だけを特定のタイミングで読み出す仕組みを解明する研究で知られる。病気の原因解明にも役立つと期待されていた。

 一連の研究は約15年間で30億円以上の公的研究費が投じられている。

 今回の調査報告で捏造・改ざんの実行者と認定されたのは、東大分生研の助教授だった柳澤純氏と、特任講師だった北川浩史氏。柳沢氏は東大から筑波大学教授に、北川氏は群馬大学教授に就任した。

 柳沢氏は筑波大学の調査で論文不正を指摘され、今年3月末に退職届が受理されている。

 旧加藤研究室の不正では、この2人が中心的な人物だったとみられている。

 加藤氏は論文執筆時に直接、捏造、改ざんをしたことは確認できなかった。しかし、加藤氏が主宰した研究室での不正行為が発生する環境を作り上げた責任を問われた。さらに、科学誌掲載後に編集部からの疑問の問い合わせに対して、論文撤回を避けようと、実験ノートの捏造・改ざんを研究員に指示していた。武山健一・元東大准教授は加藤氏の指示で実験ノートの捏造、改ざんに協力したとされた。

 捏造・改ざんとはどのようなものだったのだろう。

拡大調査報告で指摘された画像の捏造・改ざんの例

 調査報告で例示されたのは2003年、米科学誌セルに掲載された論文に掲載された図だ(右図)。

 論文掲載の画像では、さまざまなたんぱく質の存在を示す黒い線が1枚の写真として撮られたように見える。しかし、画像編集ソフトの編集履歴をたどると何枚もの画像を貼り合わせて1枚の写真のように見せかけて捏造されていた。

 このようにすれば、自分の望む研究結果を勝手に作り上げることができてしまう。悪質な研究不正だ。

 旧加藤研究室では、このような科学への誠実性に欠ける捏造・改ざんが日常的に行われていたことになる。 ・・・ログインして読む
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筆者

浅井文和

浅井文和(あさい・ふみかず) 医学文筆家

元朝日新聞編集委員。1983年に朝日新聞入社。1990年から科学記者として医学、医療、バイオテクノロジー、医薬品・医療機器開発、科学技術政策などを担当。2017年1月退社。連載記事「患者を生きる」「がん新時代」「認知症とわたしたち」などに参画。

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