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 エボラ出血熱がとうとうアウトブレークした。死者はシエラレオネなど4カ国で1100人を超え(8月16日の時点)、 欧州でもはじめて死者が出るなど、世界的パンデミック(大流行)になる前に抑え込めるかどうか、瀬戸際に立っている。

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 ついに恐れていたことが起きた、と専門家たちは思ったはずだ。このニュースを見て「自然は恐ろしい」と感じた人は、半分のメッセージしか受け取っていない。残り半分とは、「文明は恐ろしい」というメッセージだ。この点を掘り下げる前にまず、この病気の来歴と現在直面している危機を整理しておこう(以下各紙とウィキペディア他による)。

 エボラ出血熱の流行は今回がはじめてではない。1976年スーダンで初めて死者が出て以来、過去に10回ほどの小規模な流行を繰り返してきた。ただ死者数は、今日でも年間10万~数10万人の死者を出しているマラリアやコレラと比べれば、桁外れに少ない。これまでの流行が局地的で短期に収束しているのは、致死率が極めて高い(50〜90%)ことや、潜伏期間が短い(通常1〜2週間)ことが、皮肉にも幸いしたと考えられる。というのも、健常者が患者と接触して感染する機会が少なかったからだ(だが後で見るように、まさにこの点から恐ろしい「変異のシナリオ」を想定できる) 。

 今回の流行でも、致死率は60%近い。また死者総数は過去最大となった。特に怖いと感じるのは、感染のしやすさだ。 患者の体液やその飛沫(ひまつ)が感染源となるが、死体との接触でも簡単に感染する。体内に数個のエボラウイルスが侵入しただけでも発症するという。治癒しても失明・失聴・脳障害などの後遺症が残る。

 世界保健機関(WHO)のマニュアルに基づくリスクグループというのが、各国で制定されている。そこでもエボラウイルスは、最悪のレベル「4」に指定されている。この病気の怖さを熟知しているはずの、外国人医師や救援関係者からも犠牲者が出ている事実が恐ろしい。また自然宿主は、オオコウモリ類が有力とされるが未確定で、サルからの感染例もある。人の間で空気感染する可能性さえも、皆無とは断言できないという。この不確かさが恐怖をあおり、現地での対応を困難にしている。

 ここへきて当事国が、未承認の新薬を患者に投与しはじめた。WHOも直ちにこれを追認、「 現在の特別な状況下では、効果や安全性が確認されていない治療法の利用も倫理的に許される」とした(8月12日付各紙)。そのあたりにも事態の緊急性が伺える。

 エボラに限らず、エイズやマールブルグ熱などの伝染病が、なぜ比較的最近になってアウトブレークしたのか、という疑問が当然湧くだろう。これら強毒性の病気流行が単純に自然発生的なものではなく、人工的な原因があると考える理由は複数ある。話がエボラそのものからは少し広がるが、問題を巨視的に捉える上で役立つだろう。

 人工的な原因の第一として ・・・ログインして読む
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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

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