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3年半後に「掘り出された」ホールボディカウンターのデータから

内村直之 科学ジャーナリスト

 昨年春、ホールボディカウンター(WBC)検査によって福島県民の食品による内部被曝は十分低く抑えられている、という実態が明らかになった(WEBRONZA 「食品による内部被曝はほとんどないーホールボディカウンター検査が明らかにした福島の実態」(http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/2013041200006.html)。このことの解明に検査を担当した医師だけでなく、普通は世の中の雑事には関わらないはずの物理学者も関わっていたことはそのときに書いた。しかし、彼らにはまだまだこだわるべきことがあった。それは、福島第一原発事故からまだ日の浅いときに「遮蔽なしWBC」で計られたほとんど打ち捨てられていた「測定データ」の解析だった。 

 2011年3月の事故から約3ヶ月後の6月28日、南相馬市立総合病院の駐車場に一台の大型バスが到着した。その中には、Aメディカル社製のホールボディカウンターが搭載されていた。もともと日本原子力研究開発機構人形峠環境技術センターにあったものを移送してきたのだ。こんなものである。

鳥取県が福島県に貸与した移動式放射能測定車。南相馬市立病院前に駐車中=左右とも同病院の坪倉正治医師提供拡大鳥取県が福島県に貸与した移動式放射能測定車。南相馬市立病院前に駐車中=左右とも同病院の坪倉正治医師提供
測定車に搭載されていたAメディカル社製の椅子型ホールボディカウンター。椅子の背中に放射線をキャッチし測定するシンチレーションカウンターが入っている拡大測定車に搭載されていたAメディカル社製の椅子型ホールボディカウンター。椅子の背中に放射線をキャッチし測定するシンチレーションカウンターが入っている

  同病院の医師たちはこの最新鋭の道具を使って、市民の検査をどんどん進めた。内部被曝をしているかどうか、それが医師にとっても市民にとっても最大の関心事であった。一人ずつ一分間、椅子型WBCに座り、体から出るはずである放射線を計測してもらい、「通常以上」であれば、内部被曝の可能性がある……検査した人数は、7月11日から29日の間で、556人になった。

横軸は放射線のエネルギー、縦軸はそのエネルギーの放射線の頻度を表す拡大横軸は放射線のエネルギー、縦軸はそのエネルギーの放射線の頻度を表す
 体の中に放射性のセシウム(セシウム134とセシウム137)があれば定量的に検出できるはずだ。ところが得られた検査データはどう見ても不思議であった。
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筆者

内村直之

内村直之(うちむら・なおゆき) 科学ジャーナリスト

科学ジャーナリスト。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程満期退学。1981年、朝日新聞入社。福井、浦和支局を経て、科学部、西部本社社会部、科学朝日、朝日パソコン、メディカル朝日などで科学記者、編集者として勤務し、2012年4月からフリーランス。興味は、基礎科学全般、特に進化生物学、人類進化、分子生物学、素粒子物理、物性物理、数学などの最先端と科学研究発展の歴史に興味を持つ。著書に『われら以外の人類』(朝日選書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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