2014年09月15日
「鬼もあきれる『三十年後』」「県外に『ウソモホウベン』ルビをふる」……。佐藤雄平・福島県知事が中間貯蔵施設の受け入れを表明した後、朝日新聞の川柳欄にこんな句が載った。一件落着のようにみえるが、外部の覚めた目でみれば、「問題の先送り」に見える、ということだ。最大の問題は「30年以内に持ち出す」という約束だ。持ち出すといっても、発生県でも嫌われるものを引き取る県があるのだろうか、という疑問が残る。
佐藤・福島県知事は受け入れの条件として5点を示した。1)30年以内に汚染土を県外で最終処分する法案の成立2)総額3010億円の交付金の予算化3)搬入ルートの維持管理や周辺対策の明確化4)施設と輸送の安全性の確保5)政府が県と大熊、双葉2町との間で安全協定を結ぶ。
この5点が確認できてはじめて搬入を認める。石原環境相は「国としてしっかり対応する」と答えたが、一つひとつを見ると、相当高いハードルだ。
石原環境相の「金目でしょ」発言でもめた結果として出てきた3010億円という数字も相当の額だが、これは国が出そうと思えば出せる。難問は「30年」だ。それまでに県外に運び出し、そこで最終処分する。それを明記する法律をつくれ、というのである。
中間貯蔵をしながら、処理のシステムを早く作らなければならない。
30年というのは微妙な時間だ。今回、約束にたずさわる人・個人はだれも仕事を離れているだろう。死んでいるかもしれない。「本当にあなたは30年で県外へ、を約束できますか?」と聞かれたら、「できます」とはいいにくいのではないか。
今回の合意は、とりあえず「30年の平穏」は手に入れたということだろう。この時間を使って本格的な処理を始めようとしているが、まだ具体的な計画があるわけではない。
貯蔵所の計画は大規模だ。対象の土地は福島第一原発を囲み、大熊、双葉両町にまたがる16平方キロ。汚染物質は汚染土壌とその他の廃棄物に分けられ、さらに汚染レベルによって二つに分けられる。貯蔵所には雨水を抜く配管などが設置され、土地の買収と建設費で1兆円かかる。地権者は2000人。これから交渉に入る。こんなに苦労してつくる施設を30年で捨てるのだろうか?
現実的に考えてみよう。確かに何かのきっかけで汚染土の処理、最終処分がとんとんと進むこともあるだろう。しかし、「決着が付かない状態」「残った状態」で30年を迎える可能性も高い。そうなると「同じ場所に延長して置こう」となるだろう。一帯がまだ人が住めない状態であればなおさらだ。
こうした計画の実施にかかる費用は、国があとで東電に請求する。東電に貯金があるわけではない。電気料金を値上げするか、国からの援助を回す、のどちらかだ。つまり国民が払うが、形の上では東電が収益の中から払う形になる。
中間貯蔵施設建設の交渉をみていると、つくづく、原発事故処理は「日本国全体の大仕事」と実感する。お金から人手まで国家と地方の機関が振り回されるようにやっている。そうしなければできないからだが、結果として、東電の責任がみえなくなっている。大きすぎる被害ではしばしば責任者が消えるということだ。
土地に降り注いだ放射能について、かつて東電は「うちの所有物ではない、無主物(持ち主のいないモノ)だ」といってひんしゅくをかった。
汚染度が低いごみでもこれほどややこしい。これから本格的に考えなければならない「原発の中でどろどろに溶けた燃料」はどうなるのだろう。
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