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NASAがクレイジーでハイリスクな研究に予算を付けるわけ

小野雅裕 米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所研究員

 最近、僕はある突拍子もないアイデアで、米航空宇宙局(NASA)から10万ドル(約1000万円)の研究費を取った。「彗星ヒッチハイカー」というアイデアである。

 お金をくれたのはNASA Innovative Advanced Concept (NIAC)というプログラムだ。これは、SFと現実のすれすれ境界のアイデアに対して、その実現可能性を調査する研究費を出すプログラムである。NASAの職員に限らず、大学や民間企業も応募できる。毎年数百の応募の中から選ばれるのは10件程度である。どのようなアイデアが選ばれるかというと、一見するとクレイジーで、でもよく考えると不可能とは言い切れないような、ハイリスクなものだ。たとえば過去には「火星有人探査のための人工冬眠の技術」や「核融合ロケット」、「トランスフォーマー」という名の、薄い膜でできた、形を変えられるロボットなどなど(過去のプロジェクト一覧はこちら)が選ばれた。

拡大図1:彗星ヒッチハイカーの仕組み

 では、「彗星ヒッチハイカー」とはいかなるアイデアか。詳細はNASAのページや、僕のブログに載せた和訳に譲るが、これは文字通り、ヒッチハイクのように彗星、小惑星やカイパーベルト天体などの小天体を利用して太陽系を航行しようというアイデアである。非常に平易に言えば、彗星に紐を引っ掛けて引っ張ってもらう、という考えだ。

 彗星ヒッチハイクを行う宇宙機は、燃料の代わりに長いテザー(紐)と銛を積む。図1に示したように、宇宙機がターゲットとなる彗星などに近づいたら、銛を打ち込み、テザーの一端を天体に固定する。ターゲット天体が遠ざかっていくにつれて、宇宙機はテザーを繰り出しつつ、回生ブレーキ(ふだんは電気を使って軸をまわしているモーターを、逆に使ってブレーキをかけつつ電気を得る方法)をかけてターゲット天体との相対速度を徐々に殺し、緩やかな加速を行うとともに、電力を得る。

拡大図2:彗星ヒッチハイカーの飛行シナリオの例

 彗星ヒッチハイカーには様々な応用の可能性がある。図2に二つの例を示した。一つはいまだ探査機が訪れたことのない長周期彗星への着陸、もうひとつは太陽系の果てへの飛行である。図には示していないが、いまひとつの応用は、ヒッチハイクで加速ではなく減速を行い、冥王星など太陽系の果てのカイパーベルト天体の周りを周回する軌道に宇宙船を投入して、腰をすえた観測を行うことである。

 なんとも良いことばかりのアイデアのように聞こえるかもしれないが、実現までのハードルは高い。まず、 ・・・ログインして読む
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筆者

小野雅裕

小野雅裕(おの・まさひろ) 米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所研究員

米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所研究員。大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学助教を経て、現職。著書に『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)。短編小説『天梯』にて第24回織田作之助賞・青春賞受賞(緒野雅裕名義)。【2016年3月WEBRONZA退任】

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