2014年10月30日
「はやぶさ2」が11月末に打ち上がる。最初の「はやぶさ」による小惑星への接触とサンプル採集、そして地球回収という成果は、海外でも高く評価されている。前回のような綱渡りをなくして、安心して見ていられるミッションを目指すそうだ。成功を祈る。
同じ11月には世界初の彗星着陸がある。欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」の着陸機「フィラ」が12日にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に軟着陸するのだ(画像1)。構想から30年、打ち上げから10年以上の年月を費やした末の着陸である。
工学実証試験探査機として作られた「はやぶさ」と異なり、ロゼッタは始めから科学探査を目標としており、7月に彗星まで100km地点まで「到着」したあと、11個の機器で科学観測を行ないながら、次第に距離を縮め(図1参照)、今では10kmというジェット旅客機の高度並みの距離から彗星表面と彗星の出す揮発物の影響を調べている(画像2)。
目玉である着陸機「フィラ」は、軟着陸後、9個の観測装置で彗星本体を調査する。着陸個所は、ここ2ヶ月の観測で今月15日に決まった。彗星は長径4km強の不規則な形(ひょうたんに近い)をしており、表面の状態も場所によって異なるため、着陸にふさわしい地点を地球からの観測では絞れなかったのだ。着陸地点にはとりあえず「J」という名前が与えられているが、公募(22日に締め切った)を経て11月3日に決まる。
ここで多くの方が「日本が簡単に小惑星にタッチダウンできたのに、なぜ欧州は大層な努力を払っているのか」と不思議に思うのではないか。実は、欧州どころか、米国航空宇宙局(NASA)すら、彗星軟着陸をしていない。というのも、小惑星と彗星ではミッションの難度が全然違うからだ。
彗星と小惑星の違いは最近では曖昧になりつつあるが(webronza「祝アイソン彗星接近:彗星は謎だらけだ!」参照)、一応、ガス(主にH2O)や塵を太陽接近中に吹き出しているかどうかで分けられる。そうして定義された彗星は、極端な楕円軌道や、場合によっては太陽系の外から来たような双曲線軌道を描く。一方、ほとんどの小惑星は、比較的円軌道に近い。
昨年のアイソン彗星が蒸発消滅したのは、彗星が汚れたH2Oなどの揮発物の氷塊だったからだが、それでもハレー彗星などが長年生き残っているのは、極端な楕円軌道のお陰で太陽に近づいた時しか揮発せずに済んでいるからと思われる。そうであれば彗星と小惑星は本質的に異なることになるが、そのあたりは、彗星本体に着陸して調べないと分からない。10年前にNASAのスターダスト探査機は彗星尾部の塵を採集したが、そんなことでは本体の謎に届かないのだ。
しかし、極端な楕円軌道ゆえに、彗星は今まで軟着陸はおろかランデブーさえ拒んで来た。
小惑星にせよ彗星にせよ、小天体の近くに居続ける(ランデブーする)には、その公転軌道にのって「伴走」する必要がある。それはつまり、同じ遠日点と近日点を持つということだ。それらが地球から遠ければ遠いほど、探査機に与えなければならないエネルギー(燃料)が増える。これが馬鹿にならない。
ロゼッタが現在ランデブー中のチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は数ある彗星の中で一番楽なターゲットだが、それでも遠日点が5.7AU(1AUは地球と太陽の距離)で木星軌道の外、近日点が1.2AUで地球軌道と火星軌道の中間ぐらいである。ほとんどの小惑星よりも遠日点が遥かに遠く、欧州最大のロケット「アリアン5」でも探査機をそのまま彗星軌道にのせることができない。
そこで、図2(ESAのサイトにビデオもある)のような複雑な経路で火星で1回、地球で3回の重力加速を行なって、10年がかりの旅行の末、彗星の公転軌道に到達した。本当に息の長いミッションなのだ。
彗星とランデブーさせるミッションの難しさはこれだけではない。
木星軌道並みの距離だと太陽光強度が地球の3%程度しかなく、太陽電池で供給できる電力では衛星の機能を維持することが出来ない。だから過去の木星以遠ミッションは原子力電池に頼ってきた。原子力電池を持たない欧州は電力を賄う術がない。そこでロゼッタは2年半の「冬眠」に入ったのである。
冬眠の怖さは、冬眠中のトラブル類をモニターできないことと、そこから無事に目覚めさせられるか100%の確証がないことだ。特にロゼッタは地球から遠く離れた場所にいる。だから「wake up(目覚まし)」はミッションの山場の一つだった。今年1月に探査機本体が無事に目覚めたあとは観測装置の再起動という山場が続き、それらを経て、ようやく7月末から本格観測が始まったのである。既に貴重なデータが取れており、新しい発見も多くある。
次の山場はもちろん着陸だ。軟着陸に成功すれば、小惑星・彗星を通して初めてのこととなる。着陸後には機体を彗星表面に固定する作業が残っている。惑星や月と違って重力がないから、固定しなければふわふわと離れてしまうのだ。彗星から出て行く塵やガスが彗星に留まらず尾を作るのもそのためだ。
このような具合だから、欧州の彗星ファンにとっての今秋はロゼッタ一色のはずだが、どうして、それを超える彗星ショーが現在進行中だ。
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