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今秋の彗星は熱い:世界初の軟着陸と百万年に一度の大接近

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 「はやぶさ2」が11月末に打ち上がる。最初の「はやぶさ」による小惑星への接触とサンプル採集、そして地球回収という成果は、海外でも高く評価されている。前回のような綱渡りをなくして、安心して見ていられるミッションを目指すそうだ。成功を祈る。

 同じ11月には世界初の彗星着陸がある。欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」の着陸機「フィラ」が12日にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に軟着陸するのだ(画像1)。構想から30年、打ち上げから10年以上の年月を費やした末の着陸である。

拡大画像1:ロゼッタ探査機の着陸機フィラの着陸想像図。欧州宇宙機関(ESA)提供。©ESA/ATG medialab
拡大図1:10月1日から11月15日までの、彗星からみたロゼッタの軌道。着陸時は彗星の自転にロックするように探査機が移動して、図の上の部分から着陸機フィラを投入する。ESA提供のビデオの一コマ。©ESA
拡大画像2:ロゼッタのナビゲーションカメラで8kmの距離から撮影したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の表面。10月18日撮影。ESA提供。©ESA/Rosetta/NAVCAM

 工学実証試験探査機として作られた「はやぶさ」と異なり、ロゼッタは始めから科学探査を目標としており、7月に彗星まで100km地点まで「到着」したあと、11個の機器で科学観測を行ないながら、次第に距離を縮め(図1参照)、今では10kmというジェット旅客機の高度並みの距離から彗星表面と彗星の出す揮発物の影響を調べている(画像2)。

 目玉である着陸機「フィラ」は、軟着陸後、9個の観測装置で彗星本体を調査する。着陸個所は、ここ2ヶ月の観測で今月15日に決まった。彗星は長径4km強の不規則な形(ひょうたんに近い)をしており、表面の状態も場所によって異なるため、着陸にふさわしい地点を地球からの観測では絞れなかったのだ。着陸地点にはとりあえず「J」という名前が与えられているが、公募(22日に締め切った)を経て11月3日に決まる。

 ここで多くの方が「日本が簡単に小惑星にタッチダウンできたのに、なぜ欧州は大層な努力を払っているのか」と不思議に思うのではないか。実は、欧州どころか、米国航空宇宙局(NASA)すら、彗星軟着陸をしていない。というのも、小惑星と彗星ではミッションの難度が全然違うからだ。

彗星が楕円軌道をとることによる影響

 彗星と小惑星の違いは最近では曖昧になりつつあるが(webronza「祝アイソン彗星接近:彗星は謎だらけだ!」参照)、一応、ガス(主にH2O)や塵を太陽接近中に吹き出しているかどうかで分けられる。そうして定義された彗星は、極端な楕円軌道や、場合によっては太陽系の外から来たような双曲線軌道を描く。一方、ほとんどの小惑星は、比較的円軌道に近い。

 昨年のアイソン彗星が蒸発消滅したのは、彗星が汚れたH2Oなどの揮発物の氷塊だったからだが、それでもハレー彗星などが長年生き残っているのは、極端な楕円軌道のお陰で太陽に近づいた時しか揮発せずに済んでいるからと思われる。そうであれば彗星と小惑星は本質的に異なることになるが、そのあたりは、彗星本体に着陸して調べないと分からない。10年前にNASAのスターダスト探査機は彗星尾部の塵を採集したが、そんなことでは本体の謎に届かないのだ。

 しかし、極端な楕円軌道ゆえに、彗星は今まで軟着陸はおろかランデブーさえ拒んで来た。

 小惑星にせよ彗星にせよ、小天体の近くに居続ける(ランデブーする)には、その公転軌道にのって「伴走」する必要がある。それはつまり、同じ遠日点と近日点を持つということだ。それらが地球から遠ければ遠いほど、探査機に与えなければならないエネルギー(燃料)が増える。これが馬鹿にならない。

拡大図2:ロゼッタ探査機の軌跡。探査機の遠日点はぎりぎり木星の遠日点の内側にくる。重力加速とは、太陽回りの公転軌道に、重力のある星が現れると、その重力にそって公転軌道が修正され、結果的に地球から見て加速されるメカニズムで、火星・金星以遠のミッションではことごとく使われている。原図©ESA

 ロゼッタが現在ランデブー中のチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は数ある彗星の中で一番楽なターゲットだが、それでも遠日点が5.7AU(1AUは地球と太陽の距離)で木星軌道の外、近日点が1.2AUで地球軌道と火星軌道の中間ぐらいである。ほとんどの小惑星よりも遠日点が遥かに遠く、欧州最大のロケット「アリアン5」でも探査機をそのまま彗星軌道にのせることができない。

 そこで、図2(ESAのサイトにビデオもある)のような複雑な経路で火星で1回、地球で3回の重力加速を行なって、10年がかりの旅行の末、彗星の公転軌道に到達した。本当に息の長いミッションなのだ。

太陽から遠いと太陽電池が使えない

 彗星とランデブーさせるミッションの難しさはこれだけではない。

 木星軌道並みの距離だと太陽光強度が地球の3%程度しかなく、太陽電池で供給できる電力では衛星の機能を維持することが出来ない。だから過去の木星以遠ミッションは原子力電池に頼ってきた。原子力電池を持たない欧州は電力を賄う術がない。そこでロゼッタは2年半の「冬眠」に入ったのである。

 冬眠の怖さは、冬眠中のトラブル類をモニターできないことと、そこから無事に目覚めさせられるか100%の確証がないことだ。特にロゼッタは地球から遠く離れた場所にいる。だから「wake up(目覚まし)」はミッションの山場の一つだった。今年1月に探査機本体が無事に目覚めたあとは観測装置の再起動という山場が続き、それらを経て、ようやく7月末から本格観測が始まったのである。既に貴重なデータが取れており、新しい発見も多くある。

 次の山場はもちろん着陸だ。軟着陸に成功すれば、小惑星・彗星を通して初めてのこととなる。着陸後には機体を彗星表面に固定する作業が残っている。惑星や月と違って重力がないから、固定しなければふわふわと離れてしまうのだ。彗星から出て行く塵やガスが彗星に留まらず尾を作るのもそのためだ。

歴史的幸運というべき、もう一つの彗星ショー

 このような具合だから、欧州の彗星ファンにとっての今秋はロゼッタ一色のはずだが、どうして、それを超える彗星ショーが現在進行中だ。

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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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