2014年11月01日
あるとき、当時保育園児だった息子と先生の会話を何げなく聞いていて、驚いたことがある。汽車の汽笛の音を真似して戯れていたのだが、その音を先生(保育士)が「チューチュー」と発音したからだ。
息子も違和感はないらしく、「チューチュー」と返している。どうやら、その頃息子がハマっていた近所の鉄道ミュージアムの話で、盛り上がっていたらしい。もちろんこちらが仰天したのは、汽笛の音の表現だ。「汽車の汽笛はポッポーで、逆立ちしてもチューチューとは聞こえないぞ」と。
多少の背景説明が必要かも知れない。息子は米国生まれの米国育ちだから保育園では英語、家では日本語、ほぼバイリンガルに育っていた。保育園の先生は米国人だから当然英語のネイティヴで、息子との会話も英語となるわけだ。
この経験で遠い記憶がよみがえってきた。10年以上も前の話だが、私の研究室の卒業生の中に、飛び抜けて語学の才のある男がいた。(日本人でありながら)もともと英語とフランス語に長けていたが、私のラボで修士号を取得後、イスラエルのベックマン研究所に留学して博士号を取った。その過程で現地の言葉(ヘブライ語)を習得、さらにユダヤ系ロシア人と結婚したので、ロシア語まで日常会話ぐらいは出来るようになった。
その彼と久しぶりに国際学会か何かで会い、雑談しているうちにそういう話になった。そういう話とはつまり、「言語によって擬声語や擬態語がずいぶん違っていて面白いな」という話だ。なんでも、イヌはフランスでは「ouaf」と吠えるという。ロシア語では「gaf-gaf」、英語では言うまでもなく「bow wow」か「woof-woof」、でなければ「bark-bark」ぐらいだ。とにかく日本語の「wan wan」とは似ても似つかない。どういうことなのか。
この話でおおいに盛り上がったわれわれは、もうちょっと突っ込んでみよう、ということになった。彼の語学の才を即座に活用する一方、お互い国際的な研究環境にいるのだから、周囲の多様な国籍の同僚に声をかけて、動物の鳴き声について質問する。その上で辞書ぐらいは調べて、簡単な比較表を作ってみよう、と(このあたりが一般人と違い、研究者は専門外でも興味を持つとしつこい)。
その時に作った表を、私が現在仕事用に使っているラップトップから、何とか掘り出すことができた。どうやら途中で多忙に紛れたらしく、作りかけのまま放置されていた。がそれでも、イヌ、ネコ、ブタなど7種類の動物の鳴き声を日本語と英語で比較している。中でもイヌについては24カ国語、ニワトリも10カ国語で比較している。
イヌについてさらに例を挙げておくと、ドイツ語では「wau-wau」、イタリア語では「bau-bau」、なのにその親戚とも言えるスペイン語だと「guau-guau」だそうだ。一応パターンのようなものはあるようだが、変わったところで韓国語では「mon mon」、ヘブライ語では「hav-hav」など。
ニワトリの鳴き声は、日本語では言うまでもなく「コケコッコー」だが、英語では「cock-a-doodle-doo」、イタリア語では「ki-kki-li-kii」、タイ語になると「eh-ih-eh-ehee」、ベトナム語はまた違って「aaah-aah」など。
何しろ素人が昔に趣味でまとめたものに過ぎない。細かい誤りは当然あるだろうが、御容赦願いたい。だがそれでも、驚くべき多様性を示すには十分だろう。
これをどう解釈すればいいのだろう。
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