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今後の温暖化対策のカギを握る人材育成、そして都市のあり方

小林光 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

国連気候サミットでの安倍演説で注目された人材育成

 温暖化対策の今後を考えるうえで重要な会議が9月23日、ニューヨークの国連本部で開かれた。潘基文国連事務総長のイニシアチブによる国連気候サミットである。オバマ米大統領,バローゾ欧州委員会委員長ら178か国・地域の首脳と閣僚が参加した。

 安倍総理は演説で、2050年に世界の温室効果ガス排出量半減を目標とすることに再度コミットし、日本が低炭素社会のモデルとして行動を続けると述べた。また、途上国への支援、省エネなどの技術革新の続行と世界への移転、そして、2020年以降の国際的な対策に関して進む国際交渉への貢献の3つを具体的な行動として示した。

 ちなみに、この気候サミットは、2015年末にパリで開かれる国連気候変動枠組条約(UNFCC)の第21回締約国会議(COP21)において2020年以降の全世界が参加する地球温暖化対策のルールが採択されるよう、政治的なモーメンタムを高め、国際交渉を加速するべく、潘事務総長が取り仕切ったものである。したがって、この文脈では、この国際交渉の在り方に言及した米国や中国が関心を集め、また、好感を呼んだ。

 すなわち、米国は、2020年では05年比17%削減し、20年以降の目標も来年初めには発表すると述べ、EUは、2030年には90年比で40%削減することを決定見込みであるとし、英国は、EU目標に加え、2050年には80%削減を目指したいとした。そして、中国は、先進国との間では担う責任には差異がある旨牽制しつつも、従来のスタンスを大きく進めて、できる限り早くCO2排出量のピークを打って削減に向かうことや、エネルギー消費量の総量ベースでの抑制に踏み込むことを公言した。要するに、京都議定書では先進国だけがコミットした絶対量ベースの国際約束に中国もコミットする方針を示唆したのであった。

 これに比べると、我が国は、2020年以降の約束の中身を「できるだけ早期に提出することを目指す」と述べただけで、国際交渉の本流でのリーダーシップは示せなかった。これは残念だけれども、スピーチの中で具体性が高くて注目された点もあった。それは、「今回新たに、3年間で、気候変動分野で1万4千人の人材養成を約束します」のくだりである。

 その中身については、外務省から補足的な説明が流されたが、1万4千人のうちの5000人は、気候変動によって生じる自然災害増加や水資源の枯渇、生態系の被害などへ途上国が適応する際に必要となる人材であることが明らかにされていた。その余の人材がどのような専門性を獲得するのかは特定されていなかったが、おそらく、温暖化の原因に切り込む、いわゆる緩和策に係る様々な分野の専門家であることは間違いなかろうし、その育成に当たっては、適応分野の場合と同様に、産学官のオールジャパンで、計画の策定から対策実施まで一貫してサポートすることになるのであろう。この意味で、論者が、同じく安倍総理のスピーチでかつて注目して指摘(本欄の2013年5月24日号「安倍政権の成長戦略と大学の国際化」参照)していた、知的な分野での途上国サポート策が具体化しつつあるとも言え、好感できた。

 ちなみに、論者が所属する慶應義塾の湘南藤沢キャンパス(環境情報など)と矢上台(理工)のそれぞれの大学院では、互いに連合して、途上国で起業するような学生を途上国のプロジェクトに参加させることを通じて育成するプログラム(文科省が始めた「グローバルアントルプルナー育成促進事業」の下、慶應が進める「グローバルイノベーション人材育成連携プログラム」)に来年度から本格的に取り組む。ここでは、途上国側の起業指導者や起業のために学びたい者も、現地で日本の教員・研究者・指導者そして企業を志す学生と一緒に調べ、学ぶことができることはもちろん、これらの人々を日本に呼んで、慶應の提供する授業や、行っている研究に参加できる仕組みを用意した。このプログラムは、何も環境だけのものではないが、しかし、途上国での環境対策の分野でも、実学的、実業的な人材育成が行われるものと強く期待され、論者自身も参画しているところである。この文科省の新事業は、安倍総理が機構サミットで示した方針と軌を一にするものであり、慶應のみならずそれぞれの機関でも、途上国側のキャパシティ・ビルディングへの貢献を図っていただけたらと期待している。

 なお、この11月9日からは、名古屋で、国連主導で進められてきた「持続可能な開発に関する教育の10年」による集中的な取組みを総括し、今後の、いわば平時での取組みを方向付ける、ハイレベルな国際会議が開かれる。ここでも、環境人材づくりが焦点になる。

都市のCO2削減力に期待が集まる

 気候サミットでは、首脳スピーチ以外に様々な動きがあり、実務的な国際合意が積み重ねられたが、その中でも比較的に多くの具体的な取り組みが打ち出されたのが、都市分野だった。

 UNFCC事務局による総括では、来年末までに進められる2020年以降の国際ルールづくりの交渉の中で意欲的な目標を定めるために、今こそ、国々が諸都市との連携を強めるべきだ、として、都市における取り組みに大きな期待を寄せている。

 それは、都市ゆえに発揮し得る固有のCO2削減力に着目してのことである。国連事務総長の気候変動対策特使のマイケル・ブルームバーグ氏が先ごろ公表した調査研究では、世界の諸都市の講ずる政策や対策によって、2050年時点では、毎年、80億トンの温室効果ガス、すなわち、世界中の石炭消費に伴う排出量の半分相当を削減するポテンシャルがあることが示されたからである。また、既存の予測によっても、2050年時点の世界人口の70%は都市に住むと考えられていて、都市での対策が、世界の命運を大きく左右せざるを得ないのも、事実である。

 そして、こうした事実がきちんと認識されたからであろう、この気候サミットにおいては、「市長たちの世界協定」(Global Compact of Mayors)という、ユニークな発想の協定が結ばれた。普通の国際約束は、「国際」という言葉があるように、国の政府どうしが結ぶものである。しかし、このコンパクトは、国が当事者ではなく、地方政府が、いわば地球市民として、地球を守る役割を連帯して果たすことを世界に対して約束する性格のものである。

 思い起こすと、2002年にヨハネスブルグで開かれた持続可能な開発サミットにおいて、国同士の約束とは別に、タイプ2コミットメントとして、世界のあらゆる主体に対して、地球のために行う活動に関し世界に公約する道が開かれた。この画期的な取り組みの、いわば発展形を見る思いである。

 この協定には、既存の都市間協力グループのC40気候対策イニシアチブ、持続可能な都市づくりをサポートするICLEI(International Council for Local Environmental Initiatives=持続可能性をめざす自治体協議会)、そして都市や地方政府の連合体のUnited Cities and Local Governmentsを介して、各都市が参加する形になっていて、 ・・・ログインして読む
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筆者

小林光

小林光(こばやし・ひかる) 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)。工学博士。1949年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業。環境庁(省)では、環境と経済、地球温暖化などの課題を幅広く担当。1997年の京都会議(COP3)の日本誘致のほか、温暖化の国際交渉、環境税の創設などを進めた。環境事務次官(2009~11年)時代には水俣病患者団体との和解に力を注ぐ。自然エネルギーをふんだんに利用したエコハウスを自宅にしていることで有名。趣味は蝶の観察。

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