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 まず私が医学について門外漢であることを断っておきたい。だからワクチンや治療薬の開発については語れない。しかし、現時点でのエボラ対策では、防護服等による感染防止という工学的な対処療法が重要な役割を担っている。ここでは、その視点で「もしも日本でエボラ感染者がみつかった場合」の私見を述べたい。以下、主な参考先は世界保健機構(WHO)と米疾病対策センター(CDC)、スウェーデンの公共機関のホームページである。

 西アフリカ3ヶ国で深刻な流行を引き起こしているエボラ出血熱が、欧米に飛び火して、今では世界の問題となっている。特にスペインと米国で病院の看護スタッフに二次感染した件は、多くの人々に「医療のプロですら手に負えない」とエボラの感染力の強さを印象付けたのではないか。

 そんな中、看護スタッフが飛行機利用後に発症したのがきっかけで、エボラ患者との接触者、つまり要観察者の行動をどこまで制限すべきかが議論になっている。例えば、CDCはエボラの治療に携わった人の公共交通機関の使用を禁止したし、その後、米国に帰国した医師が発症した際に、ニューヨーク州は接触者全員の隔離を行なった。
しかし、この種の隔離は諸刃の刃だ。

 患者の世話をしたという善意の仕事に対して、看護スタッフの行動を医学的に妥当な線を超えて拘束すれば、下手をすると、今後エボラ患者の世話をするプロを十分に確保できなくなる。

 そもそも、隔離という措置自体に基本的人権の侵害の側面がある。発病者の隔離は当然でも、発症していない人の行動まで安易に束縛するわけにはいかないのだ。だからこそ、ニューヨーク州の強制隔離に腹を立てた看護師が異議を申し立て、裁判所も自宅外出禁止令などが行き過ぎであることを認めた。オバマ大統領も隔離に基本的に反対のようで、これら「予防措置」に対する賛否は米国中間選挙の論点にすらなった。

 この議論の根本には、エボラのリスクに対する科学的評価が完全に定まっていないことがある。危険だと分かっているけど、その危険の正体が曖昧な場合、実際のリスクよりも、一般国民の恐怖が遥かに高くなりうる。そのため人心を落ち着けるためだけの過剰な対策が叫ばれてしまう。このあたり、福島原発事故による放射線被害への不安と通じるものがある。となれば、より多くの人間が現実のリスクの上限をしっかり理解することが重要となる。

 妥当な対策を立てるには、エボラが何処まで危険なのか、つまり感染力と治癒率の最新情報を知る必要がある。

 WHOやCDCによると、感染の原因は発症者の体液への接触で、エイズや性病との決定的な違いは、極めて軽度の接触でも感染するという点だ。それは防疫のプロであるはずの医療関係者が数多く感染していることが如実に示している。8月の段階で西アフリカでの総発病者・死者のうち1割近くが医療関係者だった。10月中旬の段階でも累計で約5%となっている。さらに先進国ですら看護師が発病してしまった。

 しかしである。 ・・・ログインして読む
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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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