武村政春(たけむら・まさはる) 東京理科大学准教授(生物教育学・分子生物学)
東京理科大学大学院科学教育研究科准教授。1969年三重県生まれ。1998年名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。名古屋大、三重大の助手等を経て現職。専門は生物教育学、分子生物学、細胞進化学。著書に「レプリカ~文化と進化の複製博物館」(工作舎)など多数。【2015年10月WEBRONZA退任】
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
仕方がないで済ましていては、欧米先進諸国との差は広がるばかり
世の中は、健康、医療、食の問題にいつの時代も敏感だ。いつまでも健康で長生きしたいという人間たちの欲望は、今も昔も変わらない。
これらの問題は、常に私たち人間の身近にある。なぜかと言えば、私たち人間が根本的なところで拠って立つ基礎とも言うべき生物学的な背景が、漫然と広がっているからに他ならない。という言説と似たようなことを、4年前のWebronzaでも述べたことがある。じゃあこの4年間で何か変わったのかと言われれば、「いやほとんど変わっていない」という感想を申し上げることとなるであろう。
生物学の世界で今年最も話題になったことと言えば、やはりSTAP細胞問題だろうが、今はSTAP細胞に代わって、11月末時点で最も人々の話題をさらっている生物学的な話題は、エボラ出血熱だろう。
筆者はこれでも「生物学者」を標榜しているから、やはり生物学に関わることが一般市民の興味を惹起する形でメディア等で報じられるのは、啓発的な意味から歓迎すべきことだと思っているが、一方において、それが多くの問題を内包していることから目を逸らすべきではない、とも思っている。
歓迎すべきことであるためには、報じる側や受け取る側が、それぞれきちんとした生物学的基礎を持っていることが前提となるが、実際には疑問の余地が大いにある。エボラウイルスに関する報道に接する場合でも、エボラウイルスの生物学的性質を知っている場合と知らない場合とでは、その反応もまた大いに異なるはずだ。デング熱の際に行われた、ややヒステリックとも思えるほどの公園の大規模な蚊の駆除作業もまた同様である。むしろ公園の生態系の破壊の方を心配していた研究者の、天を仰ぐような複雑な表情が、まだ記憶に新しい。
文系・理系を問わず、すべての国民が等しく生物学の基本的な知識を身につけること、もしくは科学的なものの見方を養うこと。そのためにはやはり、義務教育段階もしくは高校段階での理科教育・生物教育の充実が不可欠であるのだが、問題はその内容だ。
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