メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

地球温暖化対策、次の一手〈上〉

ポスト京都の約束でサポートされるべき取り組みとは

小林光 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

 リマでの気候変動枠組み条約の第20回締約国会議(UNFCC/COP20)が始まった。2020年以降に世界が講ずべき地球温暖化対策のルールを決めるのが、残すところ1年の、来年末のUNFCC/COP21である。その議長国を務めるフランスを、論者は先ごろ訪れ、持続可能な開発やグリーン経済の実現を目指す様々な行政機関や研究者のお話を聞いた。その結果も踏まえつつ、地球温暖化対策を強化するために立案・交渉中の、ポスト京都の、全世界を巻き込む新たな約束に関し、ここでは、(法形式、法的拘束力の所在、執行機関、見直し規定などの約束のラッピングはともかく、)この新約束によって、サポートされることが可能であり、望ましいと思われる、対策の中身だけを簡単にスケッチしてみたいと思う。

 なぜ、本稿でスケッチしたいかの理由は、世界大の約束があったればこそ円滑に進められることになるであろう環境的に望ましい行動が何であるかは、実は、既に相当程度明らかになっているということを強調したいがためである。

 パッケージングに当たっては、是非、折角のこうした中身をこぼさず包み込んでいただく工夫をしていただきたいものだと強く思う。それは、論者が、京都会議(COP3)の準備過程での国際交渉に際して、合意可能な国際約束とは、特定の国に不利を皺寄せするのではなく、交渉当事者皆それぞれがそれなりに喜ぶことができるものでしかあり得ない、と痛感したことの結果の思いである。つまり、地球環境保全に役立つ様々なアプローチを許容し、サポートしてこそ、多くの国々が参加し役割を果たし得る約束が成り立つことになるのである。来年の3月までには、ポスト京都の約束に最小限含まれるべき要素に関する考えを各国が明らかにすることが求められているが、これは、最小限の、含まれるべきものであって、それ以外が含まれてはならない、とするものではないことには留意をしておくべきであろう(外交上の駆け引きとして、特別の要素の取り込みに反対することは常套手段である。しかし、それが必ず成功するということはむしろなく、取引材料を創出する役割が期待されていることにとどまることが多いことも事実である)。

 もちろん、来年の締約国会議が決める約束はそれほど詳細にわたることは不可能なので、ここで言う中身のすべてが、来年末に決められることは当然ないだろう。しかし、中身として推奨される取組みをなるべく多くサポートできるような柔軟なルールの骨格に関して、今後は知恵を出すということが重要である。

拡大COP20の中国代表団の蘇偉副団長。インタビューで日本に対し、「野心的な目標を望む。中国だけでなく、世界の期待だ」と述べた。リマで香取啓介撮影
 そうした前提に立って、以下は、サポート対象となるべき中身を簡単にスケッチしたものである(本格的には、それぞれのテーマに関してきちんと論文を充てて紹介すべきであるが、それは別の機会に譲り、ここでは紙面の都合から割愛させていただいた)。


 なお、次期約束の中心的な課題は、国別の削減目標(Contribution)の国際法的な位置づけ手法、CBDR原則(共通だが差異ある責任)の書き方などであるが、本稿では、このような、まさしく外交交渉によって解決されるべきテーマには直接言及していないことに留意されたい。


 (注)前述の、フランスでの調査は、環境研究総合推進費の持続可能な開発目標に関する研究(S-11)のガバナンスの良否に係わる指標設定、とりわけファイナンスの良否に関するサブテーマに係る研究費の支弁によって行われたもので、ここにその点を記し、研究費の支弁に感謝申し上げる。

1.国別の累積的なGHG排出総量の管理(いわゆる炭素バジエットなど)

・世界全体の累積排出量上限とのリンク

 11月に最終的な取りまとめが行われたIPCCの第5次レポートはいくつかの新しい切り口を示しているが、それらのうちの最も重要なことは、将来の地球気温が、排出量の推移に依存するのではなく、累積の排出総量によって基本的に決定されるという事実である。このことを踏まえると、政府が主体となる「国際」約束が2020年以降も主流になるとすれば、それは、例えば、10年間、あるいは20年間といった期間に関する国ごとの累積の排出量を管理することとするのが望ましい、ということになろう。京都議定書は、萌芽的には累積排出量を管理していたが、それは、経済や気候の変動による約束内容の安定性への悪影響を防ぐためであって、長期の累積排出量の管理という発想ではなかった。しかし、今後は、科学の教えと、個々の国の政策的な可能性とが徐々に擦り合わされていくようなプロセスを新ルールによってサポートするなど、そのステップアップが期待されよう。

・炭素バジェットの考え方の取り入れ(多様な温室効果ガスの合算、累積排出目標量からの借り入れや過剰達成の繰り越しなど) 

 京都議定書も、6種のガスの、温室効果の強弱に応じて重みづけしてCO2の量に換算したものを約束の対象としている。また、わずかながら、過剰削減量の繰り越し(第2約束期間の要削減量への充当)が認められていた。炭素バジェットの考え方を、直ちに、各国別の法的義務にすることは考えられないにしても、それに近づいていきやすい工夫を取り入れることが望まれよう。

2.国境を越えた民間活動に由来する排出量を削減する対策の組み込み

・国際流通商品等の環境性能向上

 現在の国際化されたビジネスを考えると、製品などの種々のスペックは、個々の国家が任意に定めるというよりは、国際的な基準のようなもので律せられていく可能性が高まっている。その基準は、UNFCC事務局が決めるのではなく、場合によっては、IMOであったり、ISOであったり、さらには、国際的な産業団体であったりするのである。このような、個々の国家が確実に管理することを約束しにくいが、しかし、GHGの排出量の大小に対しては、重要な効果を持つ製品スペックなどについて、そのどれを、また、どのようにして、国際約束の下に置くか、あるいは連携を取った形で見込むかは大いに論じる価値があることである。 ・・・ログインして読む
(残り:約691文字/本文:約3177文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

小林光

小林光(こばやし・ひかる) 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)。工学博士。1949年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業。環境庁(省)では、環境と経済、地球温暖化などの課題を幅広く担当。1997年の京都会議(COP3)の日本誘致のほか、温暖化の国際交渉、環境税の創設などを進めた。環境事務次官(2009~11年)時代には水俣病患者団体との和解に力を注ぐ。自然エネルギーをふんだんに利用したエコハウスを自宅にしていることで有名。趣味は蝶の観察。

小林光の記事

もっと見る