小林光(こばやし・ひかる) 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)
慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)。工学博士。1949年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業。環境庁(省)では、環境と経済、地球温暖化などの課題を幅広く担当。1997年の京都会議(COP3)の日本誘致のほか、温暖化の国際交渉、環境税の創設などを進めた。環境事務次官(2009~11年)時代には水俣病患者団体との和解に力を注ぐ。自然エネルギーをふんだんに利用したエコハウスを自宅にしていることで有名。趣味は蝶の観察。
国際共通環境税、森林保全、途上国支援の窓口拡大
ペルーのリマで気候変動枠組み条約の締約国会議(COP20)が開かれている。京都議定書に代わる新しい国際的な枠組みは来年のCOP21で採択される予定になっている。その枠組みはどのようなないようにするべきか。〈上〉では(1)国別の累積的なGHG排出量の管理(炭素バジェット)(2)国境を越えた民間活動に由来する排出量を削減する対策(3)多様な形での国別排出枠や削減クレジットの貿易、について述べた。引き続き考察する。
4.国際共通環境税
エネルギー使用上の制約が強い国と弱い国があれば、炭素集約的な製品・サービスの生産にはエネルギー制約の緩い国が相対的に有利である。このように、炭素価格が高い国と低い国があると、なかなか対策が進展せず、炭素価格が低い国が言わば汚染ヘイブンになってしまう。このようなことを避けるには、国際共通の炭素価格付けをするのが手っ取り早い道である。
しかし、実際は、租税こそ、主権国家の自主性のシンボルとして扱われることが多く、国際共通の炭素価格付けは困難であるが、それでも、IMOの主導で国際バンカー油への課税などが開始されようとしている。炭素税の共通的な導入、とその強化にも大きな可能性があると言えよう。WTOルール上は、いわゆるPPM規制(出来上がった製品の性能ではなく、製造の手法やプロセスでもって製品を差別的に扱う規制)は、サポートされないが、既にモントリオール議定書の例があるように、各国内の環境規制の有無をもって、貿易上の差別を行うことは、WTOとは別目的の環境保全上の条約が明示的にこれを認めていれば、可能である。この意味で、環境税も新約束によるサポートが可能な環境上の取組みとも言えよう。
5.国内政策措置や情報の国際的透明性を確保する措置についての共通化
京都議定書に向けた国際交渉の過程では、国別の目標に合意するだけでなく、同時に、その目標を達成するために国際的に共通して取るべき政策措置についても合意をし、議定書に盛り込もう、との考えがEUを中心に示された。この考えは、ダブルバインディング・アプローチと呼ばれたが、政策の結果である排出量について約束をしっかりする以上、手段は各国の自主性に任せればよい、との考えが米国を中心にあって、議定書への書き込みは見送られた。けれども、既に述べた民間の国境を越えた活動に対する何らかの環境上の取組みを新約束がサポートすることが期待されることと同様に、各国政府が講じる政策的取組ついても、現行の枠組み条約や京都議定書が定めるもの(排出目録作り、計画づくり、ピアレビューなど)以上の推奨やサポートが行われることは大いに結構なことだと思われる。
6.吸収源増加や森林保全を通じた炭素排出の回避の一層の取り込み
次期の約束づくりと並行して、森林管理による炭素排出の回避を、国際的にも支援していこうという風潮が強まっている。次期約束と整合的な形で、森林吸収源の維持増強を取り上げることが望まれている。
7.適応措置の強化
大変残念なことに、地球は既に温暖化しつつあり、気候災害の顕在化傾向がはっきりしている。
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