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小保方事件の背景に何があったか

噴出した生臭い疑惑の数々

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 理研小保方問題に、幕が引かれようとしている。

拡大理研の会見途中で配布された小保方晴子氏のコメントを受け取る記者たち=19日午前、東京都港区、鬼室黎撮影

 直接小保方さん自身に関わるニュースだけ拾ってみると、「早大、小保方氏の博士号取り消し決定、関係者を処分(ただし1年程度の猶予期間)」(10月7日、スポニチ他)、「小保方氏の研究室、看板降ろす 理研が付け替え(ただし所属機関は改称、再編して存続)」(11月21日、朝日他)。そしてこの12月19日、ついに理研は「 小保方氏自身の検証実験で、STAP細胞再現できず」「 来年3月末までの予定だった検証実験をすべて終了」「小保方氏の退職願いを受理」と発表した(同日、朝日他)。

 「超弩級の新発見」というあだ花が咲き、何人かの優秀な研究者の人生が狂った。

拡大

 STAP細胞が(論文で主張するような形では)存在しないことは、これでほぼ決着がついた。それにしても、マスメディアや関係機関などの対応も、科学の常識からすれば「スキャンダラス」だった。一例だけ挙げると、下村文部科学相は「STAP細胞の再現実験には、小保方さんの立ち会いが不可欠」と述べた。(理研の外部委員会も同じことを勧めてはいたが)これはTVのワイドショーレベルの世論に迎合するものではあっても、科学の常識からすればあり得ない。

 本人抜きでも、論文に書かれた「方法」通りにやれば再現できるのが、科学論文の基本ルールだ。本人抜きで再現できない結果は、長期的に見て何の役にも立たない。だからこの基本ルールは当然だ。理研は、どうしてゼロに近い可能性にここまで執着したのか。

 この疑問解明はもとより、なぜこんな途方もない不正が起きてしまったのか、その原因や背景理解という点ではうやむやのままだと言いたい。

ビジネスモデルの科学への適用

 今年は、小保方事件以外にも、科学の専門誌や大学を舞台にした事件が相次いだ。東大分子生物学研究所旧加藤研究室の論文不正(東大が今年になって不正を認定)や、ディオパン(ノバルティス社の高血圧治療薬)を巡る利益相反・データ改ざんなどが大きなスキャンダルに発展した。

 これらの事件はそれぞれ事情が違うので、原因究明も一筋縄ではいかない。だが一言でくくると、背景には、わかりやすい目標を掲げて性急に成果を求めるトップダウンの科学技術政策がある。

 この10〜20年ほどの間、文科省は成果主義と「大衆受け」路線を推進、一般受けしやすい目標を掲げた。「2001年からの50年間で、日本人ノーベル賞30人」(2001年策定の科学技術基本計画)、「今後10年間で世界大学ランキング100位以内に10校以上をランクイン 」(今年スタートしたスーパーグローバル大学構想に絡む安倍首相発言)など。理研をはじめとする大型研究機関や主要大学がこれに追随した。

 こういう流れの中で、「ビジネスモデル」を基礎科学に適用しようとする動きが、急速に強まった。それが上記諸事件の直接の原因とは言えなくとも、その土壌を醸成した。この点の考察なしには、原因究明に著しく掘り下げを欠くと筆者は考える。以下で実例を見ながら、「ビジネスモデル」の中身を掘り下げたい。

理研とネイチャー誌のカネつながり

 「性急なビジネスモデル」と書いたが、やはり科学とカネの問題は避けて通れない。実際今回の小保方問題には、カネの絡む背景文脈も複数ある。

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

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