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生命科学分野の2014年10大発見〈下〉

ベスト5は「人間とはなんぞや」を考えさせる

佐藤匠徳 生命科学者、ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括

いよいよ今年の生命科学10大発見のベスト5である。

5位.親の栄養状態の影響は世代を超えて、子、孫、ひ孫の代へと受け継がれる16,17

 妊娠中の母親の栄養状態が、生まれてくる子の成長や健康状態へ大きく影響することは古くから知られている。今年、実はこの影響が、孫やひ孫へまで、遺伝子情報の変化として受け継がれるということが、線虫とマウスという二つのモデル動物の実験で明らかになった。
線虫の研究では、飢餓状態におくと、その線虫の体のなかで低分子RNA群という複数の分子の生合成がおこり、その分子は、子、孫、そしてひ孫の代でも生合成されることがわかった17。さらに、これらの「飢餓融合型低分子RNA群」は、それぞれの世代の個体の代謝へ影響を及ぼすことが分かった17。

 マウスの研究では、妊娠中の母親のマウスを低栄養状態で飼育すると、生まれてくるオスの子の精子ゲノムに異常がおこり、そのため代謝制御に関わる遺伝子の発現が変化し、その遺伝子変化は孫の代へも引き継がれ、孫の代で病気が引き起こされることが明らかにされた16。

 これらの動物モデルでの発見は、ヒトにおいても同様のことが起こる可能性を示唆している。また、これは遺伝子情報というハードウエアの変化によるものであることから、その修復が容易でないことも明らかだ。もしかすると、妊娠中の母親へのまわりの環境の影響(ストレスなど)なども、世代を超えて、子、孫、ひ孫の健康状態に大きな影響を及ぼすのかもしれない。したがって、この発見は、基礎研究レベルで重要というだけでなく、社会的インパクトという観点からも注目すべきであろう。

4位.

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