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STAP細胞が残した深い傷

信頼で成り立っていた研究現場に迷いと苦しみ

浅井文和 医学文筆家

 科学の営みが大きく傷ついてしまった。

拡大会見する理研の丹羽仁史チームリーダー(右)と相沢慎一特任顧問=19日、東京都港区、上田潤撮影
 12月19日、小保方晴子氏らのSTAP細胞の検証実験について行われた理化学研究所の記者会見に参加した。内容は既に報道されている通り、STAP細胞は作れなかったという結論だ。

 私のように実験室の外にいる記者は「なぜ理研の一流の研究者たちがこうも易々と間違った実験結果を信じてしまったのだろう?」と言いたくなる。

 ただ、信じてしまう事情もあった。

 検証実験を担当した丹羽仁史氏(理研多細胞システム形成研究センターチームリーダー)は、会見で経緯をこう語っている。

 質問 「これまでの記者会見のなかで丹羽さんや笹井(芳樹)さんは、STAP現象が存在しないと説明できない現象を経験したり見た、とおっしゃってましたけれども、今ではこれまでに実験されたことは何だったんだと解釈されていますか?」
 丹羽 「あの論文に記載されたデータをそのまま受け止めて、整合性を持って説明しようすると、そういう現象があるんだ、ということは論理的な帰結ですね。でもじゃあその論理的帰結の根本になったデータ自身を今回、信じうるかどうかの根幹部分、現象としてあるかどうかということを検証したわけで、そこが揺らいでいることは今回のデータからも明らかだと思います。それからするともちろん、現象自体が無いと説明できない、ということもいったん廃棄せざるを得ない、と考えます」
 質問 「論文のデータだけではなくて実際に目にされ、物を見たわけですよね。丹羽さんや笹井さんは。その事実っていうのはどう説明できるんですか?」
 丹羽 「緑色蛍光は出てきたんです。……さらにはそれでキメラマウスが作られた。こういう事実があったから、最初の蛍光を発したものはリプログラミング(初期化)現象であると解釈したわけですね。でも今回、検証実験として行ってみると、なるほど、緑色蛍光は出る。出るんだけれども、そこから先が道が無くなっちゃったわけですよ。だとすると、見たものはなんだったんですかと聞かれれば、見たものは見たもので、ただその解釈が変わった、というふうに理解しています」

 簡単な処理で細胞の初期化させ、いろいろな細胞に分化する多能性細胞ができるというのは魅力的な実験テーマであったに違いない。

 このキメラマウス実験は、マウスの受精卵を育てた胚に、調べたい細胞の塊を注入し、生まれたマウスの全身にその細胞由来の組織ができるかを確かめる。これができれば、注入した細胞がさまざまな細胞に分化する多能性細胞であることの証明になる。

 一流の研究者でもキメラマウスの決定的な証拠を示されて信じてしまった訳だ。

 しかし、検証実験ではキメラマウスは一匹もできなかった。

 なぜ検証実験ではできないキメラマウスが、以前の実験ではできていたのかというのは大きな謎だが、解明は理研の調査委員会に託されている。

 丹羽氏は英科学誌ネイチャーに掲載されたSTAP細胞論文では、小保方氏と名を連ねた共著者の一人だ。

 まだ研究業績が少なかった無名の小保方氏だけでは著名なネイチャー誌の掲載はおぼつかなかった。

 丹羽氏や笹井氏という幹細胞研究での業績も豊富で著名な研究者が名を連ね、論文を論理的にまとめ上げたからからこそ、ネイチャー誌に掲載された経緯がある。

 丹羽氏もある時期までは、STAP細胞ができるものと信じていたはずだ。

 このような経験をした丹羽氏の言葉で印象に残ったのは次のようなやりとりだ。 ・・・ログインして読む
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筆者

浅井文和

浅井文和(あさい・ふみかず) 医学文筆家

元朝日新聞編集委員。1983年に朝日新聞入社。1990年から科学記者として医学、医療、バイオテクノロジー、医薬品・医療機器開発、科学技術政策などを担当。2017年1月退社。連載記事「患者を生きる」「がん新時代」「認知症とわたしたち」などに参画。

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